専門コラム 第30話 顧客を見切るタイミング
顧客を見切るタイミング
トップ営業マンやベテラン営業マンと言われる人たちは、顧客を見切るタイミングが総じて早く感じます。
駆け出しの頃、自身の経験でもそのようなことを感じました。
しかしある程度営業を経験すると、なぜそうなるのかが分かります。
当たり前のことですが、お客様には「追って良いお客様」と「捨てて良い(捨てなければいけない)お客様」がいます。
営業経験が長いとセールスマンも折衝回数が豊富になります。
そして彼らは、経験を通してそのことを知っています。
トップ営業が顧客を見切るタイミングはどうして早い?
営業とは奉仕活動ではなく一つのビジネス
詰まるところ、皆さんが日々行っている営業活動とは一つのビジネスです。
これは扱っているのが住宅や不動産だからではなく、小売を含むすべての商活動に共通する事実です。
法人営業の場合は顧客が企業ということもあり、個人向けの営業よりこのことは認識しやすいでしょう。
しかし私たちが関わる住宅産業は個人向けの営業ですが、ことの本質は変わりません。
簡単にいうとここでのビジネスとは、買う側も売る側にも「相互に利益を生む商活動」のことです。
そのため売る側にもある程度の利益がなければ、その商活動を中断しなければなりません。
これが「顧客を見切る」というものです。
分野は違いますが、株式投資などの金融投資などで見られる「損切り」と、ほぼ同意です。
何も「お客様は神様」などの歌の文句、「損して得を取れ」という古い言葉を全否定はしません。
ただ言葉の意味を取り違えると、営業マン一人では処理できないほどの大きな損失を抱えるリスクがあります。
特に住宅営業が扱う金額は、個人の買い物の中でも最大となります。
そのため営業活動とは一つのビジネスという認識で、正しい営業を進める習慣を培ってもらいたいものです。
ある営業マンの例
それでは具体的にある事例をあげてみます。
当時、住宅営業のAさんは、床面積が70坪超の新築二世帯案件を折衝していました。
しかし初期段階から競合優勢が続き、最終プランを提示後、予想どおり競合のC工務店に負け、正式に断りを受けてしまいました。
ただ時期が年度末ということもあり、4000万円を超える案件を落とすのは惜しいとし、プランを変更して再提案をお願いするよう上司はAさんに指示を出します。
真面目なAさんは、また断られることを承知の上、上司の指示通りプラン変更をした資料をお客様のもとに届けます。
すると数日経って奥様から「このプランが気になったので、もう一度打ち合わせをしたい」との電話連絡がありました。
そして結局、C工務店からもぎ取ることに成功します。
Aさんはこの勝因を「再提案したプラン内容が、よほど奥様の心を掴んだのだろう」と考えました。
ただAさんが折衝中から気になったのは、二世帯案件なのにプラン打ち合わせに展示場へ来るのは、大抵がご主人だけだったことです。
ご主人は定年退職されていますが、ご家族は全員教員の家庭で、奥様は当時校長として勤務していたため、仕事が多忙だったのかもしれません。
それでも子世帯のご夫婦は地鎮祭の時に顔を出したきり、契約前も契約以降も、全く打ち合わせに参加していません。
そのため、せっかく契約はできましたが、その後の打ち合わせは上手く捗らず、意思疎通を図るのも何かと難航したよう。
そして翌年に物件を引き渡しますが、この案件を受注後、成績不振に陥ったAさんは、引き渡しとほぼ同時に退社を余儀なくされます。
さらに数年後、Aさんが受注をひっくり返した二世帯住宅は取り壊されます。
そして別の住宅会社で、あらためて建て直すことになりました。
担当を替えてもらうのも有効な方法
この例から学べることは、
- このお客様は明らかに「捨てて良い(捨てなければいけない)お客様」だった
- 正しい判断があれば、もっと早くに打ち合わせを終了できた
ということです。
いくらご主人が家族の代表としての役割を担ったとは言え、奥様も要所でしか打ち合わせに参加せず、お子さんに至っては実質無参加であったことを考えると、正直なところ注文住宅の打ち合わせとして、普通はあり得ません。
逆に競合のC工務店の打ち合わせには、家族全員で参加していたことも考えられます。
そうなるとAさんは「当て馬」にされていた可能性も十分あります。
幾らプランでは優ってはいても、建物や設備仕様が見劣りしてはダメなお客様はいるもの。
Aさんが折衝を進めていたお客様は、まさにその可能性があります。これが「1.」を裏付ける理由です。
またこんなお客様を無理に引っ張ると、決まって自分の成績にも影響します。
Aさんが所属していた住宅会社は、契約後の打ち合わせも営業が主導するタイプの会社のようです。
そのため顧客の選択には、一層注意しなければいけません。
さらに家を建て直すとなれば、今回の家づくりに参加した多数の職人さんも落胆させます。
これは会社にとって損失でしかありません。
もちろんこれはお客様が悪いのではく、追うべき顧客の判断を誤った営業や担当上司の責任です。
なぜトップ営業ほど顧客を選ぶのかが、この例をみれば分かるでしょう。
ただ若い皆さんにとって、顧客の選別は難しい問題です。
この場合は営業の会議などで「担当者替え」を要望するのも有効な方法です。覚えておくと良いでしょう。