専門コラム 第26話 営業の本質とは?
営業の本質とは?
2019年末、日本郵政株式会社は、かんぽ生命の一連の不正契約問題が表面化したことを受け、郵政グループの3社長が一斉に交代することを表明しました。
かんぽ生命(旧社長:植平光彦氏)の後任には、旧副社長の千田哲也氏が就任。
ほか詳細は省きますが、グループの新社長には、いずれも旧郵政省出身者が後任を任されました。
(日本郵政の新しいトップには、元総務相の増田寛也氏に決定)
今回のコラムでは、どうして株式会社かんぽ生命が不正契約を止められなかったかを、ざっくりとではありますが、振り返ってみたいと思います。
「かんぽ生命」問題に見える最大の反省点とは?
郵政事業の民営化はやはり急いで取り組むべき問題だった
一般的に言って、国民の大半が「郵政事業って(かんぽ生命を含む)、とっくのむかしに民営化したのでは?」と考えている方がほとんどだと思います。
少なくとも良き方向への民営化と信じたのですが、何故いま頃になって不正契約を引き起こしたのでしょう。
確かに自民党・小泉政権時代に、有名な“郵政解散”を経て、関連法案が可決。
その後、新しい首相の福田康夫政権時代(2007年)には、持株会社の日本郵政に日本郵便、ゆうちょ銀行、そしてかんぽ生命(グループ3社)がつく形で民営化を果たしたのです。
しかし民主党政権時代になるとこの体制が崩れ、再び郵政事業が半国営化されたことはあまり知られていません。
そしてゆうちょ銀行とかんぽ生命は、政府保有株を全て売却しなくても良くなり、いまも6割程度の株式を政府が保有しています。
つまり民営化された郵政事業は再び半官管理となったわけです。
これでは「郵政事業の民営化って、それほど急務だったのではなかった」かという疑問も湧いてきます。
ただ一般に金融機関とは、リスクと相反する国が、株式を持たないのが世界標準です。
いつまでも半官半民のままでは、かんぽ生命は少なくとも民間金融機関のように自由な商品設計もできず、旧来の簡易保険時代の保険商品しか持てずに終わってしまいます。
ゆうちょ銀行も内部規約違反の不適切な投資信託販売が問題になりましたが、これも半官半民の体質が改善できないことによる問題です。
つまり郵政民営化は、痛みは伴うものの、今回のような事態を避ける意味でも、急いで取り組まなければならない問題でした。
責められるべきは経営陣。しかし営業担当にも猛省を!
今回の「かんぽ生命」問題では、おもに簡易保険が得意とする養老保険などで、保険の乗り換え時の不正、いわゆる“保険の二重契約”、無保険期間を意図的に作るといった、詐欺と言われても仕方のない手口が使われていたようです。
また上記の3つの手法のほかにも、高齢客を対象とし「当人死亡」ではなく「孫死亡」の際に保険金が受け取れるという、余りに不自然な保険を販売していたことも、一部の新聞では報じています。
半官半民の体質が「かんぽ生命」問題の本質であると、各報道記事を読むと理解できます。
また責められるべきは「ノルマが厳しい」営業ではなく、経営陣だということもあらかた理解できます。
しかしながら保険を販売していたのは、募集活動を日々行う営業です。
特に「孫死亡」という、発生率が極めて低い商品を選んで提案したのは、経営陣でも上司でもありません。
営業本人です。
問題の本質は経営陣にあったにせよ、その問題に加担した営業本人も、これを機に猛省すべきではないでしょうか。
営業の仕事の本質とは
そもそも営業は、自分で契約したくもない商品を無理に販売してはいけません。
何故ならその後も後悔の念で、不正販売したことを死ぬまで思い出すことになるからです。
あなたが最近購入した商品のうち、営業マンから無理に勧められた商品はいくつあるでしょう。
もしくは、買いたくないものを強引とも取れるクロージングで、買わされそうになったものを幾つ思い出せるでしょうか。
多分、そんなものはないはずです。
おそらくかんぽ生命の経営陣も、プライベートでは強引な営業を嫌うはずです。
でも、自社の社員には「強引な営業になれ」というのは少しおかしな話です。
営業マンの仕事は、買いたくないものを無理に売り抜けることではありません。
お客様が商品を買うことで利益を生むものを、共に選んで差し上げることです。
そのため、具体的な商談に進んで良いか、営業は必ず見込み客を篩い(ふるい)にかけます。
新生かんぽ生命の経営陣には僭越かも知れませんが、願わくは、正しい営業とはどういうものか、まず知ることから再スタートして欲しいものです。