専門コラム 第273話 本コラムが考える理想の営業像
先日テレビを付けていたら、新人さんと思いますが、リフォーム業界に入ったばかりの若い女性のことを紹介していました。職種は営業的な立場の方のようでしたが、2 級建築士の資格を取得することを、差し当たっての目標としている様子です。
何やら、付箋や書き込みやらがいっぱいの書籍が、机に広げてありました。
建築の世界は、なんと言っても「知識」がものを言う世界です。
しかしこのことは、住宅建築にかかわらず、どの分野の仕事にも共通することです。
筆者も知識の大事さを伝えたコラムを久々に挙げましたが[1]、テレビで見たこの新人さんも「自分のものの知らなさに、愕然とした」と言うようなことを漏らしています。
ただ建築士の資格を取得すれば、自分のものの知らなさを克服できるかといえば、そうではありません。1 級建築士の資格保持者でも、お客さまに見てもらえる住宅プランすら、満足に書けない方がいるのを筆者は知っています。 おそらくそうした実務経験がない方の中には、名ばかりになっている資格保持者も少なくないでしょう。
[1] 『あらためて問いたい!「知識の営業」を目指す大切さ』(2023.4.24投稿)
本コラムが考える理想の営業像
1 資格取得だけで建築の学びは終わらない
これとは逆に、建築系の資格は全然持っていなくても、優秀な住宅プランナーとしてお客様と折衝できる方、そして現在も活躍(つまり売り上げに貢献)している方が、この業界にはいます。
行政機関への手続きや申請等を通すための知識・技術は、確かに国家資格はフォローしてくれます。また将来独立を考えている方も、国家資格の取得は必須と言えるものです。持っていれば先々必ず役立ってくれます。
しかし目の前のお客さまを真に惹き込む住宅プランの提案や、現場をありありとイメージできる豊富な語彙・コミュニケーションスキルは、やはり実地経験の場数、そこから得られる知識というものがチカラを発揮します。
何が言いたいかというと、対お客さまとした場合、国家資格は名刺を差し出した際の「箔(はく)」には十分なるでしょう。ただ業界人としての本当の実力は、国家資格とはあまり関係のない領域にあります。先のリフォーム業界の女性に伝えたいのも、資格取得で建築の学びが終わるわけではありません。
しかし懸命に学んだ知識は、全てあなたの仕事に役立ちます。さらに、建築全般に理解を深めること、知識を増やすことは、誰にも奪われない宝になります。 そして先に示したコラムにもあるように、知識を営業に使うと、お客さまを意味なく煽る事はなくなります。お客さまも住宅の専門家に相談できたことに大変満足されます。
2 理想の営業像はコンサルタントに近い存在
学んだ知識で建築に正しいジャッジメントをし出すと、今度はお客さまがあなたのファンになってくれます。
そして気付きます。学んだ知識を営業に使うと、人をむやみに煽ったり売り込んだりしなくなることを。皆さんが営業を苦痛と思うのは、無理に煽ったり売り込んだりすることではありませんか? そいうことと距離を置くいちばんの方法は、学んだ知識を使って正しい営業をすることです。
ただつい調子に乗って、話し過ぎたり、学んだ全てを相手に話してはいけません。
幾ら学んだばかりで人に教えたい知識だとしても、人間は説得されることを嫌います。だから、学んだことの 2 割か 3 割程度を出すだけで十分なのです。これを筆者は「知識の営業」と呼んでいます。
こうして「知識の営業」がうまく回り出すと、自分が営業ではなく先生やアドバイザー、あるいはコンサルタントのように思えてきます。実は筆者が理想に掲げる営業像こそ、先生やアドバイザー、コンサルタントに近い存在です。
このコラムでも再三にわたって引用・紹介している書籍、アダム・グラント著『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』に登場する眼鏡店のスタッフ、キルデア・エスコート。
彼女がこれに近い存在と言えるでしょう(彼女は自らを販売員ではなく眼鏡士と言っています)。
話しを聞いているうちにキルデアは、彼女がマルチフォーカルレンズの使用法を誤解していることに気づいた。そしてマルチフォーカルレンズは、仕事のときだけでなく、運転するときや家でも使えますよとやんわりと説明した。
[アダム・グラント. GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代 (三笠書房 電子書籍) (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2866-2871). Kindle 版. ]
それを聞いて興味をそそられたジョーンズ夫人は、試しに眼鏡をかけてみることにした。
数分後、彼女ははじめてマルチフォーカルレンズの眼鏡をつくることに決め二五ドル(約七万円)を支払った。テイカーなら、おそらく売りそこねただろう。質問をしたからこそ、キルデアは夫人の悩みを知ることができ、それに対処できたのである。
このくだりは、キルデアがジョーンズ夫人に適切な質問を繰り出して、25 ドル(約 7 万円)を売り上げたシーンですが、彼女のインテレクチュアルな営業センスが功を奏した場面でもあります。
3 教師とは自分が最も学ぶ必要があることを教える存在
さて、そうは言っても、ゴールを考えると気が遠くなりそうな話に思えてきます。
何しろ住宅営業は守備範囲がかなり広範囲に亘ります。ファイナンシャルに関する事はもちろんですが、その一方でガーデンや外構の分野、家電商品のことも、全く無知というわけにもいかないでしょう。
そんなときに支えになればと思い、ある言葉を紹介します。
先生とは自分が最も学ぶ必要があることを、人に教える存在である。
これは孔子の論語にある言葉と思いますが(間違っていたらごめんなさい)、言い換えれば「自分が最も学ぶ必要があることを、人に教える存在」が先生ということです。
何も慌てる必要などありません。じっくりで良いんです。
メッセージを伝えるのが僕等の仕事とするなら、「自分が最も学ぶ必要があることを、人に教える存在」という言葉が、どれほど励みになるか分かりません。
筆者が住宅営業の世界に身を投じたのは、新卒の20代前半の頃でした。右も左も分からないながらも、牛の歩みをゆっくり進めるしかありませんでした。
思い出すと、最初の三件は良いところまで進んでも契約には至りませんでした。
ただ三件ともご主人から言われたことは「人柄、人間性の面では君がいちばんだった」というもの。
ひとりは本屋の駐車場で一休みしていたとき、向こうから声を掛けてくださいました。
もうひとりは断られた折衝の帰り際に言われたもの。最後の方は断りの理由を伝える際、受話器越しに言われました。
それを聞いて、能天気な筆者は「謙虚に戦えば、まだ勝ち目は残っているのかも」と、密かに心の灯を消さずにいました。
ここから学んだことは、純粋な気持ちで頑張る人には応援者が必ずいるということです。
皆さんのほうがもっと苦しい局面にいるかもしれません。
しかし過去には、そうやって挫けずにいた男がいた事も、何かの励みになればと思った次第です。 大丈夫です! あなたならきっと出来ます。
陰なら応援しています。
記事提供:経営ビジネス相談センター(株) 代表取締役 中川 義崇
弊社は、日本で唯一の『営業マンのための人事考課制度』を専門的に指導するアドバイザリー機関です。
営業マンの業績アップを目的とした人事考課制度を構築するための指導、教育・助言を行っています。
また、人事考課制度を戦略的に活用し、高確率で新規顧客を獲得するための方法論を日々研究しています。