専門コラム 第243話 期待値が満足度を超えるとき顧客はファン客に変わる
前回の記事は、キユーピーグループのエピソードの紹介で終ってしまいました。
繰り返しになりますが、巨大企業キユーピーグループでさえ、自分達の会社の存在を忘れ去られることに非常に敏感なのです。
ただ我々スモールカンパニーがビッグカンパニーと同じことはできません。
そこで本コラムでは、伝統的手法としてニューズレターの配信や、さまざまな営業レターを送ることを皆さんに推奨しています。 ただ今回取り上げた動画[1]で中谷氏は、普段なかなか聞かれない貴重な話題を提供しています。二話に亘ったこのコラムの最後は、ある会社が取り組む“顧客から忘れられない努力”についてみていきましょう。
[1] [顧客がリピートしない最大の理由/中谷佳正](https://www.youtube.com/watch?v=TefOI-1ZiSw)
期待値が満足度を超えるとき顧客はファン客に変わる
1 人は期待値が満足度を超えるとファンになる
顧客がリピート利用するには、記憶に留まることが大事と伝えました。
しかし我々のように、長期のローンを組んで購入を決めるような場合は特に、記憶に留まるだけで足らず、もう一歩先にある何かにタッチする必要があります。
ファンづくりもそのひとつの方法です。
このコラムも「〇〇で顧客をファン化する」ということを、初期の頃から唱えています。
ただファンづくりは容易なことではありません。たとえばファンが増える会社というは、前回の記事で伝えたこと(チャプター2の「建築系特有の顧客がリピートしない最大の理由とは?」)は、誰に言われるまでもなくクリアができているものです。
中谷氏も動画で話していますが、ファンづくりを進めるために大事なこと。
それは、購入の過程に期待値というものが存在します。ファンづくりを進めるには、この期待値を上げることが大事だと言っています。そして期待値が満足度を超えると、人はファンになるのだと。
マーケティング的には、
「感動を与えること」=「顧客からファンづくりを進める」ことへ繋がっていきます。
または「おお、凄い!」と感動してくれる人が、自分のお客さまにどれぐらいいるか。
このことが「今後重要なテーマになる」とも言っています。
そんな会社がどこかにあるのかと思う方もいるでしょう。
中谷氏が挙げたのは、シューズ、アクセサリーを中心に、サイトを展開している米国のザッポスです。
コロナ禍のなか、惜しくも46歳の若さでこの世を去った、ザッポス CEO のトニー・シェイ。
彼がザッポスの売却を受けた 2000 年当時は、年商約 160 万ドルの売上でした。それが 2009 年には既に 1000 万ドルを超えていたと言います。
そして 2009 年 6 月には、アマゾン・ドット・コムがザッポスの買収を発表しています。 なぜアマゾンが買収に踏み切ったのか。
それは、当時アマゾン・ドット・コムはザッポスによく似たサービス(Endless.com)を展開していたのですが、ライバル視していたザッポスに、アマゾンはどうしても勝てなかったからです。
2 ザッポスで靴を購入すると「人として大切に扱われる」
なぜ当時、既に天下を取っていたアマゾン・ドット・コムが、ザッポスに勝てなかったのか?
中谷氏曰く
「ここ(ザッポス)で買えば、人として大切に扱われるということを理解しているユーザーが多かった」のだと。そのぐらいザッポスのカスタマーサポートが、他とは比較にならないほどしっかりしていたと言います。
それにしても「人として大切に扱われるということ」とは、どのような顧客サービスなのか気になります。
ちなみにザッポスで扱われているのは、どこでも手に入るナショナルブランドのスニーカーなど。しかも相手というのはアマゾン・ドット・コムです。もちろんアマゾンはザッポスの価格より安くスニーカーなども販売していました。それでもザッポスに勝てなかったアマゾン・ドット・コムは、最終的に 1300 億円(12 億ドル)を支払い、ザッポスを買い取りました。
つまり 12 億ドルを払ってでも、ザッポスの企業文化を手中に収める必要がありました。
これは彼の著書(『Delivering Happiness(ザッポス伝説)』)や「Forbes Japan」にもあるように、ザッポスが有する企業文化にその秘密が隠されているようです。
ザッポスのオフィス見学ツアーに参加した Cyan Banister によれば、
オフィスに入ってまず気づくのが、社員たちが皆快活で幸せそうであるということだ。私がシェイにその理由を尋ねると、彼は、「簡単だよ。笑顔の人しか採用しないからだ」といたずらっぽく答えた。彼は、人から職業を聞かれると、必ず「私はザッポスに勤務している」と答えていた。
と言います。
また同じく Cyan によれば
トニーは、いつもザッポスの T シャツを着ていた。彼はどんな服でも買うことができたのに、ザッポスの T シャツを穴が開くまで着ていた。また、ザッポスの経営者でありながら、彼自身はそれほど多くの靴を持っていなかった。最低限のものしか身に着けず、身なりはいつもシンプルという点は、彼の最も愛すべき点の 1 つだった。
『急逝した稀代の起業家、ザッポス創業者46歳の「早すぎた伝説」[2]』Forbes Japanより抜粋
何よりトニー・シェイは、いつも「人々を笑顔にする」というミッションを身上としていたというのは有名です。
つまりトニー・シェイの生き方そのものが、彼の企業、彼のファンを生んでいたとも言えます。ここまで来ると、ファンづくりというものが表層的なものではとても成し得ないないと分かります。 彼については、こちらのサイト[3]が役に立つでしょう。
興味のある方は参考にご覧ください。
[2] [急逝した稀代の起業家、ザッポス創業者46歳の「早すぎた伝説」](https://forbesjapan.com/articles/detail/46822?n=1&e=38581&boost=all)
[3] [【Zappos】トニー・シェイ(1)「幸福を届ける」Zapposの元CEO](https://www.youtube.com/watch?v=PiH4LLNLyIY)
3 歯科医ですらカスタマーエクスペリエンスを強く意識している!
最後にもう一件は、ある歯科医の例です。
歯医者の治療処置に、銀歯などを装着する「被せ物治療(いわゆるクラウン)」があります。
そして聞く所によると「カスタマーエクスペリエンス(CX[4]、顧客体験価値)」が高い歯医者になると、被せ物治療の翌日には患者と電話連絡するのだそうです。そしてクラウンの状態を聞き、もし異常や違和感があれば、再度予約を設定して状況を見てくれるそうです。
このような CX が高い歯医者に対し、患者は言いようのない安心感を得られ、喜びや満足度が高まるでしょう。もちろんこのような歯医者には、余程のことがない限り、患者は次回も利用することでしょう。
つまり昨今は歯医者までもが、顧客満足度を高めることに四苦八苦しているのです。
また中谷氏によると、ある通販会社では新規の顧客に、「その人向けの」ビデオメッセージを送っていると言います——これに対し住宅営業の我々が、いまなおサンキューレター、来場お礼のハガキを満足に出せない会社もあります。 私たちは、まだやれることが沢山あります。
中谷氏の動画から、そんなことを考えさせられました。
[4] CX とはCustomer Experienceの略語。日本語では「顧客体験価値」「顧客経験価値」と表現し、顧客接点で顧客自身が感じる「満足感」「喜び」といった感情的価値を指します。
記事提供:経営ビジネス相談センター(株) 代表取締役 中川 義崇
弊社は、日本で唯一の『営業マンのための人事考課制度』を専門的に指導するアドバイザリー機関です。
営業マンの業績アップを目的とした人事考課制度を構築するための指導、教育・助言を行っています。
また、人事考課制度を戦略的に活用し、高確率で新規顧客を獲得するための方法論を日々研究しています。