専門コラム 第118話 断熱・気密がいい住宅は、なぜ顧客満足度が高いのか?
以前の投稿(2020.12.30投稿 第115話)で、温熱環境にこだわった工務店は、営業をしなくても自社のお客を良い意味で「囲い込みやすい」といったことを書きました。
いちばんの理由に上げられるのは、断熱・気密がいいと何より住まい手の満足度が高くなるからです。
これは先だっての投稿(2020.12.29-投稿 第114話)で取り上げた「兵庫、大阪で高断熱高気密住宅専門の建築家集団 松尾設計室」の動画、『建ててから後悔したことワースト3+α』からもわかります。
ただこのことは戸建住宅だけのことではなく、公営(県営、都営など)の集合住宅なども似たことが言えます。
知人に建築系のインターネットライターがいます。
彼は数年前に脳梗塞を発症し、以来麻ひを免れた左手だけで、現在も執筆作業をしています。
そんな彼も現在、築 23 年の県営住宅に引っ越して、快適な生活を送っています。
そして彼自身も「意外だった」と漏らしているのですが、彼の越した県営住宅は、気密住宅として計画されたものでした。
断熱・気密がいい住宅は、なぜ顧客満足度が高いのか?
20年前の住宅業界は今より揺れていた?!
築23年と言うと、建築業界はようやく壁体内結露の問題を克服し、これに伴い通気層工法が道内から全国的に標準化されたのがちょうどその頃でした。
また『いい家が欲しい』という本が、建築本としては異例の大ヒットを博し、外断熱(外張り断熱)ブームに火が付いた時とも重なります。
いっぽう建築基準法では常時換気システムの設置が新築住宅に義務化され、さらに欠陥住宅問題の社会的影響もあり「住宅の品質確保の促進等に関する法律(いわゆる「品確法」)」に基づき、住宅性能表示制度が始まりました。
もしかすると当時の住宅ユーザーは、今より高気密高断熱住宅により強い関心を抱いていたかもしれません。
また当時の時代背景が、彼が引っ越した当時の公営住宅に反映されたことは、想像に難くありません。
ただ気密住宅として計画されてはいても、所詮県営の集合住宅です。
サッシはアルミ製(二重窓)ですし、断熱仕様まで確認はしていませんが、コストの関係で内断熱の確率が高いでしょう。
また24時間換気は三菱の3種のシステムが選ばれています。
しかし構造がRCのため、築 20 数年でもそれほど劣化していないのか、入居時から冷房がないのに御堂(みどう)のような涼しさを感じ「この建物は絶対当りだ」と彼は思ったそうです。
そして住むほどに、建物の性能の良さに気付いたと言います。
気密住宅は換気システムを常時稼働するのが原則!
では住み心地はどうだったのでしょう。
まず夏に入居したのですが、外気温が30度を越す真夏日でも、パソコンでの執筆作業程度なら、お昼ごろまでリビングに設置したエアコンを稼働させなくても居られるといいます。
彼曰く、これに貢献したのは「おそらく常時換気による除湿効果」とのこと。
また夜シャワーを浴びても汗の引きが早く、以前の家より風呂上りが格段に快適になったと証言しています。
これも換気システムのお陰ではないでしょうか。
さすがに午後からは暑くてエアコン——これが木造の 6 畳用の機種のみと言います——をつけますが、彼が作業しているのはリビングではなく、隣室の寝室兼作業部屋です。
この部屋には特に冷房器具は設置してません。
つまりリビングから漏れ出る冷気と扇風機による風だけで、十分快適に作業できるそうです。
そして夏に窓を開けるのは涼風が取れる朝方だけと決め、それ以外は窓を極力開けないで過ごします。
そして新鮮な空気は、換気システムで散り込むようにします。
よく換気システムを止めている家を見かけますが、気密がしっかり取れていれば、換気システムを止める必要はありません。
なお、この県営住宅の窓は網戸が一切ついていません。
これもこの住宅が気密住宅として計画されていたからのことでしょう。
断熱に関して集合住宅のRC造は、木造戸建よりさらにコスパに優る!
夏は快適に過ごせましたが、冬はどうでしょう?
これはひと冬越してみないと分かりませんが、現時点で言えることは、新しい暖房器具を買いそろえる必要はいまのところないようです。
というのも、住戸自体の断熱性能が想像以上に高いからです。
このことは松尾設計室の代表も動画で言っていますが、断熱工事を考えると、木造軸組は他の工法よりコスパに優れます。
ただし一つだけ例外があります。
それは、集合住宅のRC造だけは(特に中間階中部屋)、木造戸建よりさらにコスパに優るということ[1]。
このため松尾氏は、中古マンションを購入し、サッシを二重サッシに交換するなどで、十分暖かいコスパの良い家が手に入ると言います。
したがって間取りが良いものなら、築 20 年前後の中古マンションを狙ってみるのも一つの方法です。
そう言う意味で彼はラッキーでした。
彼の県営住宅は気密住宅として計画したRC造です。
そして住戸は中部屋ではありませんが中間階に位置します。
彼が高性能な県営に引っ越しできたのは、まるで狙っていたかのようです。
ただ彼はそれなりの思いで引っ越しを決断しました。
健常者ではない彼は、最低でも以前の家より、快適で冬場に寒い思いをしないで済む家を心から望んでいました。
いま彼の住戸は、中気密・中断熱の住宅のような床からくる冷えを全く感じません。
しかも床面が暖かなのは床暖房のせいでもありません。
あらためて言うまでもありませんが、断熱・気密性能は、何事にも替えの効かない重要なファクターです。
また目には見えないものですが、断熱・気密が十分に取れている住宅は
• 経済性
• 健康面
という二つの側面から、その効果は掛け算で効いてきます。
筆者はそのことを、彼の引っ越しでより強く感じるようになりました。
今回のコラムは営業とは関係のない内容でしたが、参考程度にみていただくといいでしょう。
[1] [住宅なら木造、木造なら軸組(在来)工法がコスパ最強]
(https://www.youtube.com/watch?v=mHFZXUIldaA)
実は松尾氏もそれまで住んでいた県営住宅のほうが、ハウスメーカーで建てた自宅より、多くの点で高性能なことから、建築士を目指すことを決意したそうです。