専門コラム 第79話 大抵の商売は人の感情を動かさないと購買につながらない
先日あるテレビ番組を見ていたら、ダウンタウンの松本人志さんが普段からかわいがっている後輩芸人に「それ、むちゃくちゃ笑い取りに行っているやん(笑)」と、イジッているシーンがありました。
筆者はこれを見て思いました。
お笑いも営業もツボとなる場所は同じなのだなと。
もし、同じでないとしても、とても似ているなと。
お笑いに関して、「芸人さんは基本的に笑いを取りに行っては負けだ」ということをよく耳にします。
この後輩芸人さんも業界では中堅どころか大物。そんなことは当たり前にわきまえておられる事でしょう。もちろん、この場面はプライベートな飲み会で、気を抜いた瞬間を捉えていました。
ただ、この番組は我々営業マンにとって、いくつも学べることがあります。
このことは過去のコラムでも触れているのですが、今回はそれをもう少し別の角度から捉えてみましょう。
大抵の商売は人の感情を動かさないと購買につながらない
お笑いは笑いを取りに行っては負け≒営業は売りを急いでは負け
幾分大袈裟に聞こえるかもしれませんが、大抵の商売は人の感情を動かさないと購買につながりません。
しかし多くの営業マンは、人の感情を動かす前に売り急いでしまいます。
ただ営業もお笑い芸人と同じです。
このコラムで何度も申し上げていますが、売りを急いではいけません。
さらに言えば、営業は無理に売っては失敗します。
ある大物芸人さんいわく、「客を無理に笑かそうとすると、芸風が素人並みになる」とのことですが、これは営業活動と非常に似ています。
人に商品を買ってもらうには私たち営業は何をすればよいのか。
こう考える発想そのものに間違いはありません。
ただ、この発想に捉われた営業マンは、扱う商品のスペックを羅列したり、会社のメリットを見つけることに、注力しがちになります。
そして、お決まりの商品自慢や会社自慢が始まります。
商品自慢や会社自慢で購入を決められる商品も中にはあるでしょう。
しかし我々が扱う住宅や不動産は、果たしてそういうタイプの商品でしょうか?
また商品のスペックや会社のメリットだけで決められる商品でも、買う人のおかれている事情はさまざまです。
AIが仲立ちをして購入が決められる商品でも、なかには営業を介して購入を決めたい人もいるでしょう。
そういう人を購買につなげるには、方法論やセオリーではありません。
どれだけお客様の心を振るわせたかで決まるのです。
優れたセールスメッセージは「心の琴線に触れる言葉」から出来ている
テレビで松本人志さんがイジッていた芸人さんは、漫才コンビ「千原兄弟」の弟、千原ジュニアさんです。
彼の存在や松本さんから見た評価は、普段かわいがっている後輩芸人の中でも、かなり高いことは周知のとおりです。
その千原ジュニアさんが、松本さんから笑いを込めてイジられているのは、クリスマスの飲み会で、サンタさんの格好をしているジュニアさんの画像を、バイきんぐ小峠さんがバラして見せるといった下りでした。
つまり、サンタさんの格好をしてボケる千原ジュニアさんは、営業で言えば「売りに出ている」姿勢です。
なんでジュニアたる者が、サンタの格好をして、安直に笑いを取らなければ行けなかったのか、という姿を嘲笑して「それ、むちゃくちゃ笑い取りに行っているやん(笑)」と、松本さんがたしなめている訳です。
リピートして申し訳ないのですが、笑いも営業も「ムリに売りに出ては(笑いを取りに行っては)」いけません。
そもそも優れたセールスメッセージは、かならず受け手への「学び」や「気付き」であったり、また「心の琴線に触れる言葉」から構成されています。
受け手の感情が動かされるのはそのためです。決して売らんがための商品スペック、会社自慢で構成されてはいません。
お笑いも同じで、優れた芸人こそ観客をムリに笑わすのではなく、素の姿とギャップに観客を引き込むことで「そこはかとない笑い」を生みます。
そしてきわめて高度な技術でお客の心や感情を操っているところが、両者共通しているところでしょう。
営業を成功に導くコツは、夫婦関係を良好に保つコツとも似ている
あくまで私見ですが、営業を成功に導く取り組みと、夫婦関係を良好に保つための努力には共通点が多いと思います。
どんなに仲が良いカップルも結婚して夫婦になると、恋愛の時期とは異なり我慢比べが始まると多くの人たちが語っています。
これは、昔も今も変わりません。
時には我慢が限界を超えて、自分の習慣や主張を相手に押し付けてしまうこともあるでしょう。
また、「自分はこんなに働いているのだから、もっと自分の言う通りにしてほしい」と互いに言い合う家庭もあると思います。
しかし、それで夫婦関係が良好に続くケースは少ないはず。
強要されたり、訳もなく嘆願されては、話を聞く前に気持ちが落ち込んでしまいます。
しかし家庭ではダメだと分かっていることを、営業の場面ではこれ見よがしにやってしまいます。
中にはこれを会社命令と称して、営業マンに強要するところもあるようです。
法人営業であればともかく、個人がコンシューマーとなる営業で、この方法は絶対避けたほうがいいでしょう。
これからの住宅業界は実需に見合った規模に縮小を迫られます。
そして、いの一番で除外されるのは、顧客の感情を正しく理解しない会社や営業です。
これらの選択を誤らず、これからも顧客の感情をうまく掴んで信頼・信用される営業マンを目指しましょう。