専門コラム 第146話 営業とは取り組むべきテーマが広範に横たわる仕事
小耳に挟んだごくプライベートな情報ですが、知人の娘さんの学友が、とある会社の新卒採用の内定を辞退されたとのこと。
詳しく話しを聞くと、その会社は内定期間でも——多分社長あてと思いますが——何やら営業についてのレポートの提出を義務付けたと言います。
そして、そのお友達は当初営業レポートなるものを、言われたとおり書いて提出します。
ただその提出が度重なることから怪訝に感じた学友は、インターネットでその会社の周辺情報を検索しました。
そして、その会社の営業方式やスタイルが、かなり厳しいとの噂があることを知ります。
会社は業界の方なら誰もが知っている有名企業。
さらにその親会社は、多くの有名タレントをTVCMに起用しています。
そんな有名企業グループに属する会社なのに、いまだに古い営業スタイルを踏襲することに何の疑問を持ちません。
恐らくそのお友達は、そのようなやり方に果たしてついて行けるか、不安を感じたのでしょう。
営業とは取り組むべきテーマが広範に横たわる仕事
大手を中心に根強く残る「タケヤリ」ド根性営業
しかもこの会社は、内定期間でも学生に対しビジネスレポートを提出させています。
この話が本当なら、この会社は入社前から、自社の古い営業スタイルを学生に強要していることになります。
ただ考えてみれば令和の時代になっても、高度成長期の昭和、低成長時代の平成期のまま、古い営業スタイルを守っている会社は、今も大手を中心に多く残っています。
むしろ大手のほとんどは「今も古い営業スタイルのまま」と言ったほうが、現状には近いかも知れません。
それを思うと、この会社は入社前から会社の営業姿勢を示したのです。
その姿勢は、むしろ学生にとって好ましいものとも言えます。
ただ大手が作り出す商品・サービスは、予算を投じて綿密に計画され開発したものがほとんど。
そのため商品や総合的なバランス力で、大手を凌ぐことはほぼ不可能です。
そのいっぽうで営業方式は意外に古く、先ほども触れたとおり「タケヤリ」ド根性営業のままという会社も未だ健在です。
それでも大手の場合、マスメディア広告を打ちます。
それで多少営業方式が古かろうと、差して問題にはならないようです。
しかし同じことを、中小規模の会社やスモールビジネスがやった場合は、果たして「粗削り」なままの営業方式で、どこまで通用するでしょうか?
大手と中小では営業に対する考えに歴然とした差異がある
ごくプライベートな情報から、話がずいぶん飛躍してしまいました。
それにしても、なぜ古い営業スタイルがダメ——または学生に人気がない——なのでしょう。
少し乱暴と取られそうですが、大抵の古い営業スタイルの会社は、「お客様はかならず一定数付いてくる」と、心のどこかで信じているのではないでしょうか。
言い換えると、リピート構造[1]に対する意識の低いのだと。
リピート構造とは、お客様が繰り返し来店され、商品をリピート購入してくれる仕組みのこと。
簡単にいうと、リピーターを生む仕組みづくりが、中小に比べると大手はそれほど熱心ではないということです。
そもそも大手には潤沢な広告予算があり、いつでも新規を獲得する仕組みが元々備わっています。
だから営業スタイルが古いか新しいかという前に、大手と中小では営業に対する考え方に、歴然とした差異があると考えたほうが良さそうです。
知人の娘さんの例は、内定を出した会社が、思いの外「タケヤリ」スタイルが過ぎた会社だったということです。
では一般的に新卒者が選ばない、中小やスモールビジネスが取り組んでいる営業スタイルとは何なのでしょう。
誤解を恐れずに言うと、それこそマーケティングを意識した営業スタイルです。
この場合のマーケティングとは、少ない元手で高収益を得るダイレクトレスポンスマーケティングのことを指します。
もちろん大手の営業でも、意識的にダイレクトレスポンスマーケティングを勉強している方もいます。
反対に、業態が中小やスモールビジネスなのに、マーケティングのマの字も知らない方だっています——いっぽうでマーケティングのことを全然知らなくても、そのエッセンスを仕事の中で自然と体得する、一種の天才もいるかも知れません——。
ただどちらにしても、若い学生にこそ意識的に学んで欲しいのが、マーケティングを意識した営業です。
[1] 拙記事『住宅ビジネスの真骨頂はリストビジネスにあり!』を参照
学生たちに書かせるならマーケティングの名著のレポートのほうが相応しい
ダイレクトレスポンスマーケティングについては、このコラムでも何度か触れました。
また先ほどのリピート構造やニュースレターも、ダイレクトレスポンスマーケティングで扱う中心的テーマのひとつです。
ただこの流れからひとつ言えることは、営業やセールスの仕事は学ぶことが山のようにあると言うこと。
またド根性営業とマーケティングを意識した営業では、学ぶ質も量も後者のほうが大きくなります。
従って入社前に学生たちに書かせるなら、変な営業論ではなく、例えば『ハイパワー・マーケティング[2]』などの歴史的名著のレポートを提出させたほうが、学生・雇う側の双方に利益があるでしょう。
さらにこれからは、広告に依存しすぎると、どのようなビジネスも立ち行かなくなるでしょう。
だからという訳ではありませんが、できるだけアタマが柔らかいうちから、ダイレクトレスポンスマーケティングに親しんでおくことは、とても意義深い自主研修となります。
先の学友さんは、営業に出会ったタイミングが悪かったかも知れません。
ただそれで、営業という仕事に見切りを付けてしまうのは、少し勿体ないと感じています。
もちろん営業という仕事にまだ興味あるなら、機会をみてまた挑戦してみることも悪くないでしょう。
まだあなた達の年代なら、いつでもやり直しが効きます。
[2] 言わずと知れたジェイ・エイブラハムが書いたDRMの名著。新訳も出ていますが、金森氏が訳したの旧バージョンがよりおすすめです。
記事提供:経営ビジネス相談センター(株) 代表取締役 中川 義崇
弊社は、日本で唯一の『営業マンのための人事考課制度』を専門的に指導するアドバイザリー機関です。
営業マンの業績アップを目的とした人事考課制度を構築するための指導、教育・助言を行っています。
また、人事考課制度を戦略的に活用し、高確率で新規顧客を獲得するための方法論を日々研究しています。