専門コラム 第176話 フローとストックから見えるこれからの商売の行方
今回は、小坂裕司氏のワクワク系マーケティングで展開される理論、また新刊『「顧客消滅」時代のマーケティング』( PHP 研究所 2021/2/26)から気になる言葉を抜き出し、コラムを作成していきます。
どうしてこの期に及んで、小坂裕司氏の考えに惹きつけられるのか。
誤解を恐れず言うと、このコラムのベースとなる考えと小坂氏の考えに、相通じる点が非常に多いからです。
こう書くと、「相通じる点が非常に多いから」と言うのは「お前の誤解」と言われそうです。
ただコロナ時代になり、スモールビジネスを展開されている方の多くが苦しんでいるなか、心に素直に届き、自分の思いに深く突き刺さったのが、小坂氏の数々の言葉でした。
またその言葉を裏付けるように、業績を出し続けている実践会員さんたちの姿に、素直に感動します。
しかし時代がコロナ禍を回避できていたら、小坂氏の印象は、これまでとそう変わらなかったかもしれません。
その意味では今回のパンデミックが、良くも悪くも「未来の前倒し」に過ぎないことを、実感しない訳にはいきません。
今日は彼の中心的な考えとも言える、フローとストックについて見ていきましょう。
フローとストックから見えるこれからの商売の行方
1 「フロー」と「ストック」とは?
フローとストック。
この二つの言葉は、もともと経済学、会計学で出てくる用語です。
たとえば、会計の分野でフローとは、売上や費用を指します。
または「一定期間に流れていくもの」を示す用語です。
これに対し、ストックとは文字どおり、貯蓄・備蓄されたものを示します。
またストックとは「会社が持つ設備」などを言い表します。
しかしマーケティングでいうところのフローとストックとは、
• 「フロー=一見客」
• 「ストック=常連客」
と解釈されます。
「顧客消滅」時代のマーケティング』より抜粋
なお「フロー=一見客」とありますが、京都・祇園あたりのお店や、著名な料亭や割烹では「一見さんはお断り」とよく聞きます。
この場合の「一見客」、「一見さん」とは、お店が持つ、また常連客や店主が長年育てた「無形の文化」や「暗黙の慣わし」を、初めてのお客が来ると、どうしてもそういうものを掻き乱してしまう。
そのことを嫌って、通常、紹介された方でなければ、店の門を括らせないというのが「一見さんはお断り」という考え方や風習です。
しかしここで使われる「一見客」とは、京都などに見られる「一見さん」とは別の、単純に「通りすがりのお客」と考えて間違いありません。
小坂氏はもっと分かりやすく、二つの違いを捉えています。
それはつまり、
• 「フロー=蛇口から流れ出る水」
• 「ストック=風呂桶、給水タンク、貯水槽等」
というもの。
そして小坂氏は言います。
我が国で、日本人を相手に商売していく場合、これからのお店・商売は「ストック=常連客」を強く意識しなれれば、そのビジネスや商売はやがて先細りに陥ると。
なぜなら今回のコロナのように、フローが急に止まると、ほぼ無条件に蛇口自体が閉まることに。
このとき、水を貯めておいた店——つまり顧客や常連客を育てていた店——は、貯まった水を用いてしばらく商いができます。
ところがフローだけに依存し、「ストック=常連客」を全く持たない店は、たちまち露頭に迷ってしまうことになります。
これが日本の商売やビジネスの現状を表していないでしょうか。
また立地などの条件にこだわり、出店していた商売やビジネスのなかには、高額な家賃に苦しみ、店を畳まざるを得ないところも多いようです。
ここで思い出していただきたいのは、先の「一見さんはお断り」のお店です。
お店の「無形の文化」や「暗黙の慣わし」を大事に商売を続けていれば、懸命に新規などを追わなくても、それで商売が成り立つのです。
選別消費も進むなか、特にコロナ以降は、より「ストック=常連客」を重視しなければいけないことが理解できるでしょう。
2 良く手入れされた顧客リストは最高の資産
小坂氏は自身の書籍、あるいは YouTube チャンネル等で、伊豆で和菓子店を 10 店舗経営する「石舟庵」を例に取り、フローとストックの典型的事例を詳しく解説しています。
興味がある方は、彼の新刊や『「フローとストック」の概念とは?』を参考にしてください。
ただこれを、私たちの住宅やリフォーム業にどう置き換えると良いでしょうか。
結論から述べましょう。
注文住宅やリフォーム業も、ストック型のビジネスに移行することは十分可能です。
何より私たちが関わる住宅ビジネスは、主にアンケート形式で、お客さまのご住所とお名前を集めています。
ですから大概の会社は、ストック型ビジネスの第一段階はクリアしているでしょう。
ストック型ビジネスに移行する第二段階は、顧客リストを見直すこと。
具体的には、顧客リストの鮮度を区分けします。
あなたが所有する顧客リストには、長く放置したままの“死にリスト”が含まれていませんか?
以前コラム(『手付かずの顧客リストが私たちに教えること(2021年8月末投稿済み)』)にも書いたように、お客さまは性質として自然にゼロに向かいます。
リストに何も手を加えなければ、リストは手付かずのまま消滅してしまいます。
そこで、最低でもサンキューレターを送る。
また意味のない「ごめんください訪問」をかける時間があるなら、その方の状況に見合った「お役立ちレター」を月一回でも発送する。
古いリスト、何も手を掛けず自然にゼロになったリストをどうするか。
最終的にはあなたが決めてください。
ただ古いリストでも、一定期間接触を続けた結果、なかには数ヶ月後にリフォームの相談が入ることもあります。
そのため無闇にリストを処分しないのも一つの方法です。
ただ古いリストを残す場合は、新鮮なリストとしっかり区分けしておくことです。
かのダン・ケネディが「良く手入れされた顧客リストは、最高の資産である」との言葉を残しています。
これには、強く同感します。
3 「絆作り」に最適なツールって何?
続いて、第三回目に取り組んでいただきたいのが顧客との「絆作り」です。
そして「絆作り」に欠かせないアイテムがニュースレターです。
なおワクワク系では実践メンバーの方も、「ニューズレター」と正式に発音しているようです。
ワクワク系と言えば 20 年近くも前から、ニュースレターの効果の高さを評価しています。
ところが、流石に最近では、ニュースレターのことを滅多に言わなくなりました。
理由は顧客との「絆作り」できるなら、DX でも LINE でも十分というのが、小坂氏の考え方のようです。
顧客の性質によってはメールのほうがいいこともあれば、手書きのDMのほうが効果を発揮することもあるからだ。
もちろん、LINEなどの最新ツールが効くケースもあるだろう。
自分が提供するサービスとの相性や、主な顧客のタイプから決めればいい。
「顧客消滅」時代のマーケティング』より抜粋
ただそうは言いながらも、氏の新刊でも「このニューズレターは、顧客リストを温める強い武器になる」と言っています。
また「顧客との絆作りのポイントの一つが、自分について語ることである。
学問的にいうところの自己開示だ」と書いています。
ワクワク系実践会の若いメンバーには、ニュースレターの効果を実体験していない方もいるでしょう。
先の小坂氏の言葉には、ニュースレターを「自分のモノにして欲しい」との願いが込められているようにも聞こえます。
日本の各所で世代交代が進むなか、実践会の若きメンバーたちが、ニュースレターというツールをどう活かせるか、見守りたいと思います。
記事提供:経営ビジネス相談センター(株) 代表取締役 中川 義崇
弊社は、日本で唯一の『営業マンのための人事考課制度』を専門的に指導するアドバイザリー機関です。
営業マンの業績アップを目的とした人事考課制度を構築するための指導、教育・助言を行っています。
また、人事考課制度を戦略的に活用し、高確率で新規顧客を獲得するための方法論を日々研究しています。