専門コラム 第72話 【住宅性能表示制度】と引渡し物件の価値について思うこと
住宅の営業販売に長く携わってみて思うのは、物件の引渡し後に「あそこをこうすれば良かった」といった反省点です。
これは営業をしていた時期にもよりますが、おそらく誰しも経験があるのではないでしょうか。
そんな中、ある方の物件は反省点が少なく(もちろん全くないわけではありません)、お客様も長く住んで比較的満足しているのではないかと思う家があります。
それは「住宅性能表示制度」を使ったお客様の住宅で、私の元同僚が担当した物件です。
このお客様は性能表示制度が使えるようになった翌年に、この制度を利用して自宅を建築されました。
ここでは住宅性能表示制度と、この制度を使って引渡したお客様の物件について、思うところを書いてみたいと思います。
【住宅性能表示制度】と引渡し物件の価値について思うこと
「住宅性能表示制度」とは
同業の皆さんには不必要な説明と思いますが「住宅性能表示制度」とは、平成 12 年 4 月 1 日に施行され、同年 10 月に運用開始された、「品確法」をベースに創設に至った制度です。
創設された背景に、当時社会問題にも発展した「欠陥住宅」の歯止めとなるよう、また住宅のユーザーが安心して良質な住宅を取得できることを目的に、10 項目に亘って共通ルールが作られたのが「住宅性能表示制度」です。
ただ、知っての通り「住宅性能表示制度」は、マスコミにも取り上げられ非常に話題になるものの、ハウスメーカーからも工務店からも、積極的に採用しようというところが少なかった制度です。
そんなこともあり、営業キャリアの長い方でも、「住宅性能表示制度」を使って住宅を引渡した経験がある方は、きわめて少数と聞いています。
またお客様も「余計な設計費用を掛けるぐらいなら、キッチンなどの設備をグレードアップする」と考える傾向が強く、これが原因で性能表示制度が不発に終わったのだと考えられます。
そのなかで「住宅性能表示制度」を、それも実質運営初年度に希望するというのは、色んな意味で「中々の方(いわゆる「煩型の方」)では」と、実際に担当した元同僚は思ったそうです。
しかし、私の元同僚がこのお客様と膝を交えて付き合ってみると想像とは随分違い、数々のお施主さんの中でも気持ちの大変ホットな方だったそうです。
特に、ご夫婦の家づくりに対する考え方は常に同じ方向を向いており、そのため私の元同僚はかなりの初期段階から「このお客様の家づくりは、きっと成功するな」と感じていたようです。
実際、このお客様の要望は比較的多い方でしたが、建築上のトラブルも殆どなかったと記憶しています。
「住宅性能表示制度」とは自動車を選ぶときのスペック表のようなもの
なぜ「住宅性能表示制度」を使って引渡した住宅は、満足度が高くなる(お施主様だけではなく、物件を引渡す側も)のでしょうか。
理由を端的に述べると、住宅の性能についての根拠が設計図書類で明示されているからです。
私たちがトヨタやホンダといった自動車メーカーに信頼を持つ理由は、カタログやホームページにクルマのスペック(エンジンの総排気量や使用モーターの種類、燃費、駆動方式など)が明示されているからに他ありません。
ところが完成品ではない注文住宅は特にですが、カタログやホームページに性能スペックの記載がありません。
私達は価格がクルマの 10 倍もする住宅を、スペックも分からず、購入を決断しているのです。
これが、住宅産業が一般にトラブルやクレームが多くなる理由です。
現在、原則として「住宅性能表示制度」を使った住宅だけが、クルマのようなスペックのようなものを把握できるようになっています(設計図書類を手掛かりにという面はあるものの)。
私達はトラブルやクレームを少なくする意味でも(また精神衛生上のためにも)、もっと「住宅性能表示制度」を重視するべきではないでしょうか。
4 分野に緩和され「住宅性能表示制度」は身近な基準になった!
不人気な「住宅性能表示制度」も、これまで10 分野あった必須項目が、平成 27 年 4 月 1 日に改定され、現在 4 分野に緩和されました。
これにより型式認定を取っていない住宅メーカーや工務店でも、設計業務は以前ほど煩雑ではなくなりました。
【性能表示制度の必須 4 分野と緩和された項目】
• 構造の安定に関すること
•(火災時の安全に関すること)
• 劣化の軽減に関すること
• 維持管理、更新への配慮に関すること
• 温熱環境、エネルギー消費量に関すること
•(空気環境に関すること)
•(光・視環境に関すること)
•(音環境に関すること)
•(高齢者等への配慮に関すること)
•(防犯に関すること)
※()内が緩和された項目です
また最近では住宅の性能の必要性が叫ばれるようになり、【構造の安定】と【温熱環境】は特に注目されている項目です。
その意味では以前に比べ、建築主・建主の双方にとって、満足度の高い住まいづくりができる環境に近づいています。
それには工務店レベルでも、社内に実力のある設計担当者がいることが欠かせません。
転職については、最近のコラム記事でも取り上げています。
これで転職希望者に伝えたいことして、設計に強い住宅会社を転職先に選んでほしいことが、少しでもお分かりいただけたでしょう。