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専門コラム 第134話 『知的生活の方法』に垣間見えるエコハウスの風景

   

2017 年に惜しくも他界され、専門の英語学以外にも多方面にわたる評論活動で著名な上智大学名誉教授、渡部昇一氏。

 

氏の古典的名著、『知的生活の方法』(講談社 1976/4/20)を、先日、実に学生時代ぶりに読み終えたところです。

実際、ここに書かれてある「知的生活」に憧れはしたものの、社会人となった筆者には、とても真似できないものでしたが。。。

 

ただ以前渡部氏が亡くなられる直前に、インタビュー番組で見せた屈託のない物腰が大変印象に残っており、「先生の書籍をまた読んでみたい」と思っていたところでした。

(女優の宮崎美子さんがナビゲーター役となり、企画された番組だったと思う。)

 

数十年ぶりに読んだ本でしたが、『知的生活の方法』に書かれている内容は意外に随分と覚えていました。

ただ学生時代から親しんだ本書で、今回意表を突いたのが、日本の家屋について、渡部氏の「隙間がありすぎる」との記述です。

このことは当時の記憶からはすっかり消えていました。

 

そして『知的生活の方法』には、このようにも書いています。

 

“クーラーのよくきく部屋は、当然のこととして暖房もよく効く。

こういう書斎の暖房はパネル式あるいはそれと類似の電気製品に限る。

ガスもだめだし、石油ストーブもだめである。

考えるにしろ書くにしろ、頭の中には酸化された真赤な新鮮な血液が流れていなければならない。

同じ部屋の中で酸素を消耗する暖房器具はすべて頭の敵と思わなければならないのである……”

(4. 知的空間と情報整理「書斎の音熱対策」より抜粋)

 

つまり先生は、いまでいう気密住宅の必要性を、1970 年代当時より(実際にはこの本を書かれるもっと前から)、わりと深いところまで考えていたことになります。

  

     

『知的生活の方法』に垣間見えるエコハウスの風景

家はどちらかと言うと気密性能の方が大事?

  

あまり意味のない比較ですが、住宅の性能について気密性能と断熱性能のうち、どちらがより大事かと問われたら、あなたはどう答えますか。

 

エコハウスの比較では「気密性能も断熱性能も、両方とも大事。

ゆえに質問自体が誤っている!」と答えるのが本当かもしれません。

ただ強いて言うのなら、気密性能にこそ、軍配を与えるべきかもしれません。

 

たとえばZEHレベルで良ければ、6地域などの温暖地なら断熱材の適合仕様は高性能グラスウール 16 K品の 100mm 断熱で、外壁部分は間に合うでしょう。

さらにZEHは気密性能いついて、特に縛りを設けていません。

 

HEAT 20 [1]にも、特に気密性能の縛りはありません。

ただHEAT 20 はG 2 グレードになると、地域によって断熱材も 100mm 断熱では足らず、付加断熱をプラスするケースも出ます。

そしてHEAT 20 レベルを目指す工務店は、みな一様に、C値(相当隙間面積)の測定を工務店レベルでこなすのが普通です。

 

これはC値が 1.0 を切らなければ、HEAT 20 などの性能面でハイスペックな家の実現は難しいうえ、住宅に設置する換気システムも、申請に出す計算上、正しく機能しないことがその理由です。

逆に性能にそれほどこだわらなければ、ZEHレベルで住宅は「間に合わせておけばいい」ことになります。

 

ただ、渡部氏のこだわり違います。

 

“クーラーをまだ付けていなくて、しかも知的作業をしようとしている人は、一年につき三ヵ月、寿命を短くしているに等しいと言ってよいであろう。

学生もオートバイや自動車を買う金があったら、クーラーを買った方がよい”

 

つまり気密住宅とは数字合わせで取り組むのではなく、我々の健康維持に欠かせないものだと、渡部氏は言っています。

 


[1] 20年先を見据えた高断熱住宅研究会の略称。現在は一般社団法人に移行。特にG1・G2は、現行省エネ基準を上回る信頼性の高い住宅性能指標として、エコハウスの設計者・工務店から広く認知されています。

 

  

気密性能の高い家は一年中静か過ごせて、夏季も涼しく快適

   

さらに渡部氏はこうも言っています。

 

“これから家を建てるときは、徹底して遮熱・遮音の部屋を一つぐらい作っておくとよいと思う。

先年、改築したときに、一室をこのようにしたところが、夏は夜の十一時ごろにクーラーを切ると、翌日の十時ごろまでひんやりしているし、冬は、夕方ちょっと電気で暖めると、翌朝までほんのりと暖かいことがわかった。”

 

渡部氏が言う「遮熱」の部屋とは、当時の日本の家屋について、徹底的に「隙間」を塞ぐと言う意味です。

またもっと「いま流」に解釈すれば、渡部氏が目指した「遮熱」の家とは「エコハウス」とほぼ同義とみて良いでしょう。

 

“窓はサッシのほかにもう一枚のアミイリ・ガラス窓を入れて二重にし、天井と屋根のあいだには遮熱・吸音用のマットをぎっしりつめこみ、部屋の内部はアプホルスターにする”

 

先生も指摘しているとおり、遮熱・遮音の部屋(家)は、「夜中にヴァイオリンを引こうと、オペラのアリアを唄おうと、近所から文句がくることはなくなる 」ばかりか、熱が逃げにくくなります。

 

その結果本物のエコハウスは、夏季は前日のエアコンの冷気が昼頃まで残っていますし、換気システムの常時換気によって、室内の空気から余分な湿気が排除されます。

こうして、日本特有の蒸し暑さも緩和されるのです。

 

冬場も「遮熱・吸音用のマット(つまり断熱材)」をぎっしりつめこむことで、暖房熱を逃しにくくします。

これは渡部氏のような能動的な知的生活者でなくても、必要な生活スタイルと想像します。

 

  

エコハウスが推奨する最低室内温度は?

  

また渡部氏は電気代についてもこう指摘しています。

 

“クーラーが効くほどの気密性が高い部屋であれば、電気代は大したことはない。

部屋全体を寒くない程度にして、足そのものは電気スリッパをはくとか、あるいは和風なら、こたつにすればなおよいだろう。”

 

今の時代に電気スリッパやら、暖房器具にこたつを選択するのもどうかと思いますが、高断熱・高気密住宅にしたから、冷暖房費に生活コストを懸け過ぎては意味がありません。

そのため「部屋全体を寒くない程度にして」他は衣服などで調整するのが、高断熱・高気密住宅の基本思想です。

 

そこで気になるのが推奨室温です。

 

日本には特に何度と定めた基準はありません。

ただ一般的には、北海道の居間における平均室温の 21.5 度がベストな数値として定着しています。

これは道内の宅内冬季死亡率が、日本国内では最も低いからと言うこともあります。

 

ちなみに鳥取県の居間の平均気温は 16.9 度だそうですから、温暖地の室内平均気温のほうが、低く設定されていることが分かります。

 

なお 2018 年にWHO「世界保健機関」の勧告で、「冬の住宅の最低室内温度は 18 度以上であるべきだ」と発表がありました。

そしてこの最低室内温度が 18 度を下回ると、私たちに何らかの健康被害が出ると言われています。

そのことから、室内の平均温度が 20 度や 21 度を割らないようにすることが、妥当な線ではないでしょうか。

 

 

ただ世界に目を向けると、イギリスでは賃貸住宅でも、冬の最低室内温度が 18 度を下回ると、改修・閉鎖・解体といった厳しい処置が下されるようです。

またこれはドイツ、フランス、スウェーデンといった欧州先進国で、すでに常識と言われています。

 

日本は後れを取り戻すべく、住宅に関して欧米の先進国のレベルに、早く到達する日が望まれます。

 

それにしても渡部先生の慧眼ぶりに、あらためて驚かされます。