専門コラム 第215話 「技術」を追求すると営業はセールスが要らなくなる
窓近くすだく虫の音に耳を傾けつつ、お便りをしたためています。夕暮れ前の風の涼しさに、夏の終わりを感じるようになりました。
前の記事で『住宅セールスは技術の営業』とうたったばかりですが、
実は今日のテーマの前振りとして、「技術の営業」という言葉を使ったという面もあります。
何が言いたいか?
それは「技術」を追求すると、営業という仕事はセールスが不要となるということです。
これは過去のコラムで既に語っていることですが、
今日はある本をもとに、「技術の営業」というものを整理してみたいと思います。
「技術」を追求すると営業はセールスが要らなくなる
1 世間的に見た営業マンのイメージ
営業でいちばんイヤなこと。
それは無理な売り込みを強いられる場面です。
心理学者のアダム・グラント書いた『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房 2014/1/8)という本があります。
この本の第五章、『トップ営業マンの、すごい「逆転の発想」』に次のような一節があります。
作家のダニエル・ピンクによれば、営業マンと聞いて、人がまず思い浮かべるのは「押しつけがましい嫌なヤツ」だという。
営業マンの典型的なイメージは、人をいいように操るズルがしこい人間で、成功した営業マンは、態度が威圧的で、自分の利益しか考えず、人をだますことさえいとわない人間のように思われている。
『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』から抜粋
なかには「そんなの、当たり前のこと。いちいち気にしていたら仕事にならない!」と思っている方もいるでしょう。
この本でも MBA 保有者に、44 の職種について「社会的に果たしている責任」という観点でランクづけしたところ、営業マンは最下位の株式ブローカーに次いで 43 位でした。
ただここから想像するに、無理にセールスすることなくモノが売れたら、それこそ全営業の理想型と言えないでしょうか。
そして、そのヒントとなるものが、前記事(『住宅セールスは技術の営業』)で、いみじくも示されています。
もしよろしければ、前記事二項目の「住宅営業は技術的知識がモノを言う?」に軽く目を通していただくと理解しやすいかもしれません。
ここには、住宅を売りこなすには、どうしても技術的知見や知識が必要だと書いています。
そして、より上を目指す方、また会社のやり方にのみ依存しないと決めた方、あるいは、本気で住宅建築というものがどういうものか知りたい方は、専門書を読み、ご自分や先輩の現場に出向くなどして、本物の知識を習得するべきと、筆者は考えています。
すると少しずつ、お客さまに語る内容も変わってきます。
どう変わるかというと、いい加減な発言が影を顰め、より専門的な知見からアドバイスするようになっているはずです。
そして軽率な営業トークはなくなり、
あなたの話に真剣に耳を傾けるお客さまが現れます。
どうして、そうなるのか?
人は無理な売り込みトークは御免ですが、
専門的な知見から発せられる言葉には敏感で、積極的に耳を傾けようとするからです。
2 お客さまを助けることが私の仕事
先ほども出てきた『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』という書籍。
先の箇所から数ページほど読み進めると、キルデア・エスコートという女性の眼鏡店スタッフが登場します。
私は自分を眼鏡士だと思っています。私どもは第一に医療機器関連業で、第二に小売業で、販売はたぶんその次でしょうか。私の仕事はお客さまに応対し、お話をおうかがいし、ニーズを知ることです。
売ることを一番に考えたことはありません。お客さまを助けることが仕事なのです。重要な情報をお伝えすることを、一番に心がけています。私が心から気にかけているのは、お客さまに気持ちよく眼鏡をかけていただくことですね。
『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』から抜粋
これはスタッフのキルデアの接客があまりに素晴らしかったので、著者のアダム・グラントが
「あなたの販売スキル(テクニック)」について詳しく知りたいと願い出た際の、彼女の返答です。
これは先の営業マンの典型的なイメージ——人をいいように操るズルがしこい人間で、成功した営業マンは、態度が威圧的で、自分の利益しか考えず、人をだますことさえいとわない人間——とは正反対です。
繰り返しますが、彼女は「売ることを一番に考えたことはありません。お客さまを助けることが仕事なのです」と言い切っています。
そして「重要な情報をお伝えすることを、一番に心がけ」ること。
また「お客さまに気持ちよく眼鏡をかけていただくこと」こそ大事だと言います。
他愛もない言葉のようですが、ここに登場するキルデア・エスコートこそ「技術の営業」を実践するスーパー・セールスマンです。
と同時に、この状態こそが「営業がセールスから解放される」状態です。
だから筆者は前の記事で「またこう思えたことを、非常にラッキーなことと受けとめています」と述べたのです。
私たちがしなければいけないことは、口先だけの営業トークを捨て、専門家としての「知識の仕入れ」に努めること。
そうすることで、営業は「無理な売り込みを強いられる場面」がなくなります。
3 誰でも特定の分野の専門家になれる!
これで「技術」を追求すると、「営業はセールスが要らなくなる」という意味が、何となく通じたのではないでしょうか。
そして眼鏡という比較的狭い分野でも、専門家という立場が十分成立することを、この後に続くジョーンズ夫人との接客応対の中でキルデアは示します。
これに関しては引用は控えますが、興味がある方は『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』を手に取られるといいでしょう。営業主体の本ではありませんが、とてもユニークな視点で書かれた書籍です。
要は「技術」や「専門知識」は、その奥行きにかかわらず、どの分野でも存在するということ。
住宅でも和菓子屋でも、モノを売るという仕事に専門性は常についてきます。そして誰でも特定の分野の専門家になれます。
「営業はセールス以前に専門家であれ」
これは「ワンテーマ型」ニュースレターにも通ずる、このコラムの中心を成す考え方のひとつです。
記事提供:経営ビジネス相談センター(株) 代表取締役 中川 義崇
弊社は、日本で唯一の『営業マンのための人事考課制度』を専門的に指導するアドバイザリー機関です。
営業マンの業績アップを目的とした人事考課制度を構築するための指導、教育・助言を行っています。
また、人事考課制度を戦略的に活用し、高確率で新規顧客を獲得するための方法論を日々研究しています。