専門コラム 第92話 「顧客の聞き流せない言葉」 それは商談を左右する ”インサイト”
本年8月後半、「セールスは聞き役に回るほうがうまく行く」と題して、2つの記事を載せました。
筆者のホームページをご覧になった事のある方は、「これはインサイトのことを言っているな」とお気付きかもしれません。
そうです、コラム記事に記載の「顧客の聞き流せない言葉」は、筆者が経営指導させていただく際に基本としている「インサイトの考え方」に繋がります。
「インサイト」の考えは、近年のマーケティング業界において、もっとも重要なキーワードの一つで、本人も気が付かない潜在的な購買欲求のスイッチのことを言います。
もっと簡単に言うと、「直感的にほしい!」と思わせ、潜在ニーズを購買欲求へと変換する引き金になる何かです(機能、香り、世界観、ビジュアルなど何でも)。
インサイトは、書籍やネットなどで、その内容が詳しく紹介されています。
今回は、それらの中から書籍『インサイト 消費者が思わず動く、心のホット・ボタン』(桶谷功著 ダイアモンド社 2005 2/17)を選び、筆者の意見も交えてご紹介したいと思います。
「顧客の聞き流せない言葉」 それは商談を左右する ”インサイト”
著者の桶谷功さんってどんな人
著者の桶谷氏は大日本印刷を経て、世界最大級の広告代理店JWT戦略プランニング局執行役員を務め、ハーゲンダッツやSchick、ディズニービデオなどのブランド育成に貢献された方です。
また、2005年に書籍『インサイト』にて、日本に初めてインサイトの考え方を体系的に紹介した方です。
現在は、株式会社インサイトの代表取締役として、多方面(『宣伝会議』や著名なビジネス系サイトでの執筆活動など)で活躍されています。
このように、桶谷氏は根っから広告の世界の人であり、それも本場米国のTVCMの世界で生きてきた方ということが制作実績からうかがえます。
冒頭にもありますように、筆者がコラムで取り上げた「顧客の聞き流せない言葉」は、インサイトの考え方に基づいています。
もちろん、世界的ブランドのハーゲンダッツやSchickなどのマーケティングで重視されるインサイトと、地方の工務店や住宅営業が取り入れる事のできるインサイトでは、圧倒的にスケール感や出口戦略が異なるでしょう。
ただ、インサイトの要が「消費者が思わず動く、心のホット・ボタン」であるならば、その入り口は、地方の小さな会社であろうと、ワールドワイドなブランドであろうと本質的に同じであると断言できます。
書籍インサイトの中で印象的な言葉があったので、ここでご紹介します。
「出発点はあくまで人であって製品ではない。人はその製品のユーザーかどうか以前に、さまざまな気持ちや感情を持って生活している人とらえる。そのなかでブランドや製品をどう思っているのかを掘り下げていくのだ(P.36)」
「日本の消費者は世界で最も進んでいると思う」とは?
書籍「インサイト」第 1 章の最後に、「インサイトを見つけるスイッチ」というミニコーナーがあります。ここでは、「インサイトを見つけるには、アタマではなく、直感やカラダを使うこと」が必要だと言っています。
筆者は、これに同意するとともに、プラスして売り買いの現場での「経験と場数」が必要ではないかと思っています。
また、筆者がこの本で印象に残った場面は、27 ページ後半の「余談になるが、ある意味で日本の消費者は世界で最も進んでいると思う。
評論家的で情報を選別する消費者だ(もちろん、ブランド品に群がる未熟な一面もあるのだが)」と著者が述べる箇所です。
そして、欧米の消費者は「広告の発するメッセージを比較的信じる傾向がある」と続けます。
欧米で誕生した広告理論(あるいはマーケティング理論)が、日本では通じないことが多いのは、実はこの為(日本の消費者は世界で最も進んでいるから)でしょう。
これはインサイトにしても注意して扱わなければ、誤った「切り取り」をしてしまう危険性をはらんでいます。
先ほど筆者がインサイトを見つけるのに、やはり売り手としての「経験と場数」が欠かせないと付け加えたのは、こうした意味があります。
インサイトは消費者も把握していないケースがほとんど
筆者が、コラム「セールスは聞き役に回るほうがうまく行く」で、もっともお伝えしたかった事の一つは、『消費者は、自分でも真のニーズ(つまり「インサイト」)を把握していない』ケースが多いということです。
したがって、営業マンは、いくら「消費者の要望に寄り添って」も、それが独りよがりに終わるケースが多いことを把握していなければなりません。
また、インサイトを見つけるには、徹頭徹尾「アタマではなく、直感やカラダを使うこと」が必要です。
もし、あなたが大々的な広告を作成する必要があるなら、作成チームを動かすために、テーマや広告の構成がインサイトに基づくことを証明するための裏付けデータが必要になるでしょう。
しかし、幸いなことに、住宅営業がインサイトを実行する場合、会議やデータの補完は必要ありません。
折衝の進め方が正しい方向であれば良いのです。
そしてこれには、営業マンとしての経験と資質だけが頼りになります。
インサイトを見つけるために必要なのは、直感やマーケティング感性です。
これは、書籍「インサイト」でも同じような説明がありました。
貴重な折衝を台無しにしないためにも、商談を左右するインサイト「心のホット・ボタン」の在り処に注意を払いたいものです。