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専門コラム 第39話 2019年のビジネスキーワードが示すもの

言葉は難しそうですが・・・

年の瀬には、この1年を振り返る企画が相次いで発表されます。

その中で、採用や人材育成、組織運営など企業経営に関するさまざまな情報を提供しているサイトが発表した2019年の「キーワードランキング」が目につきました。

サイトの性質上、流行語大賞やヒット商品番付のように分かりやすいものではありませんが、経営や組織を考えるうえで、かなり奥深いものを感じさせます。

1位になったのは「心理的安全性」。

何?それ、と思われる方も多いかもしれませんが、漢字通りに解釈すればいいので、中身はそれほど難しい話ではありません。

その言葉を解説する前に、2位以下を先に紹介しておきましょう。

  • 2位「DX(デジタルトランスフォーメーション)」
  • 3位「THE MODEL」
  • 4位「褒めるマネジメント」
  • 5位「シンギュラリティ」

となっています。

アルファベットやカタカナが多く、「心理的安全性」よりはるかに縁遠いものに思えてしまいます。

それぞれ簡単に説明していきましょう。

デジタルトランスフォーメーション

「DX」は、最初に使ったスウェーデンの学者が「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」ことと定義しています。

ビジネス面でもう少し分かりやすく言えば、「企業がテクノロジーを利用して事業の業績や対象範囲を根底から変化させること」となるようです。

ITを敬遠していては、現代の経営は成り立たないと言われているようですが、現実問題として避けて通れないのは確かでしょう。

THE MODEL

これは、米国の顧客管理ソリューションを中心としたクラウドコンピューティングサービスの提供会社、セールスフォース・ドットコム社が提唱したもので、顧客の獲得や育成、拡大と言った販売プロセスを分業する組織体制をつくることで、より高い成果を生み出す仕組みを言います。

ここで重視されるのが「インサイドセールス」です。

顧客を訪問して直接アプローチする「フィールド(アウトサイド)セールス」に対して、電話などで間接的にアプローチする内勤型の営業活動を指します。

見込み客との関係性を維持、あるいは高めて購買意欲を高めることまでをインサイドセールスが行い、クロージングをフィールドセールスが行うという流れになります。

現代の消費者は、必要な情報はインターネットなどでいつでも簡単に引き出せます。

そうした消費者に直接足を運んでも無駄が多く、成功率を高めることはできません。

インサイドセールスが関係性を築き、高めることで消費者とのつながりを太くし、顧客に引き上げることが求められる時代になってきているというわけです。

褒めるマネジメント

言葉通り、褒めることによって部下の自己肯定感を高め、主体性を生み出すことです。

これをマネジメントに生かすことで、チーム全体のパフォーマンス向上を目指します。

今ならパワハラと指弾されるかもしれない、叱る一辺倒のマネジメントへの反省があります。

部下の言動から評価できる点を見つけ出し、前向きな言葉で伝えることによって自発的成長を促す「ポジティブフィードバック」という言葉がありますが、それも同じことです。

シンギュラリティ

AIに関連してよく聞くようになってきました。

技術的特異点と訳されます。

人工知能が発達して人間の知性を超えることによって、人間の生活に大きな変化が起きるという概念です。

一部では、2045年には人間と人工知能の能力が逆転すると言われています。

グーグルが注目した「心理的安全性」

さて、心理的安全性です。

グーグル社が「心理的安全性は成功するチームの構築に最も重要なものである」と発表したことで高い注目を集めるようになりました。

一言で言えば、従業員やメンバーが自分の考えを自由に発言したり行動に移したりできる状態のことです。

逆に、自分の発言や行動が否定されたり、ミスすれば他のメンバーに責められたりするのではないかと心配している状態は、心理的安全性が確保されていない状態と言えます。

こんなふうに説明すれば、心理的安全性が高いチームでは活発な議論が行われ、チームとしてのパフォーマンスも上がるであろうことは、容易に理解できるでしょう。

そこでは、メンバー同士が信頼でつながれ、仕事の目的や意味が明瞭になっていて、自分の仕事が組織や社会に対して影響力を持っていることが、おのずと確認できるのです。

心理的安全性が低いと、どんな気持ちになるでしょう。

こんなことを言ったら無知だと思われないか、という気持ちがあると「分からない」と言えませんし、知らないことを尋ねることもできません。

また、無能だと思われたくないと構えてしまうと、ミスや失敗を隠そうとしますし、自分のせいでチームの足を引っ張られると思われないかと考えてしまうと、自発的な発言ができず、アイデアを思いついても発言を控えるようになってしまいます。

つまり、欠点を隠していい面だけを見せようとしてしまうため、本当の信頼もチームワークも生まれないのです。

ひいては、他のメンバーの足を引っ張り、チームのパフォーマンスにも悪影響を及ぼすことになります。

ビジネスの基本は人間関係

ここまで読んでいただくと、「心理的安全性」と言う言葉は初耳であっても、決して難しい話ではないことがお分かりいただけるでしょう。

従来、「報・連・相」や円滑なコミュニケーション、積極的な議論と全員参加といったメンバー同士の関係性を重視してきた組織論と同じことと言えるのです。

強いて言えば、心理的安全性の高いチームでは、単に目の前の仕事がうまくいくことにとどまらず、一人ひとりのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が向上し、メンタルケアの面からも効果があり、長期にわたって働きたいと思う職場環境の確立に通じるというところまで、視野を広げるところに新しさがあるかもしれません。

「褒めるマネジメント」にしても同じことです。

言葉は難しそうですが、人間関係の基本を別の言葉で言い表しただけで、私たちが普通に心がけてきたことなのです。

「THE MODEL」にも同様のことが言えます。

こうした言葉がビジネス界のキーワードとして浮上してきたことを考えれば、いささか大雑把なくくり方かもしれませんが、ビジネスの基本は、結局は人間関係だということに思い当たります。

新しい言葉を敬遠したり、最初から分からないと目を閉ざしたりするのではなく、自分がこれまでに身に着けてきた対人関係の築き方や生き方そのものに置き換えて見たら、それほど苦労することなく、新たな視点がみつかるのではないか。

そう思わせてくれる「キーワードランキング」でした。