専門コラム 第30話 自らの統率力の下で仕事を成功させて、部下とともに喜ぶ。
リーチ主将に見る統率力
メンバーが一丸となって戦える組織が強いのは、ラグビーW杯の日本代表が十分に見せてくれました。
全員が「ベスト8」という目標を高いレベルで共有していたことが大きな要因ですが、リーチ・マイケル主将の統率力を見逃すことはできません。
ラグビーは、試合が始まればヘッドコーチ(HC)はグラウンドに降りられず、チームを統率するのはゲームキャプテンです。
2015年の前回大会での南アフリカ戦。
最後のプレーでエディ・ジョーンズHC(現イングランドHC)は同点狙いのペナルティゴールを指示しましたが、リーチ主将の判断でスクラムを選択し、逆転トライに結び付けたことはよく知られています。
今大会のゲーム中も、リーチ主将がボールを持って突進するたびに、会場から「リーチー!」の声援が飛ぶほど、観客の心をがっちりつかんでいたのも、身をもって示すキャプテンとしてのリーチ主将への信頼と期待の大きさの表れであったのでしょう。
ジャパンでは、1日、3回も4回も、セッション(練習)をやってきました。
僕は絶対、グラウンドに立たないといけない。
ケガをする暇もない。
強くなりたい。
嫌な練習も、嫌とは言わない。
みんな、そうです。
やらないといけないとわかっている。
日本にいる選手は(世界との意識の差を)知らないだけ。
上から言うのではなく、『世界はこういうものなんだよ』と少しずつ教える立場にならなきゃいけないと思います。
いずれもリーチ主将の言葉です。
責任感、広い視野、人の気持ちをつかみ鼓舞する言葉…。
チームを統率するうえで求められるさまざまな資質がうかがえます。
無自覚に部下を遠ざけてしまう「罠」
統率力とはリーダーシップの一つで、与えられたチームをまとめ、率いていく力です。
会社で言えば、プロジェクトリーダーや営業部長などに求められる力量といえるでしょう。
社長やボードが決めた会社の方針や進むべき方向性を、実戦部隊の中で現実化していく役割と言えるでしょうか。
そんな視点で調べていると、「部下の可能性を潰してしまう12の聴き方」というものを見つけました。
組織コンサルタントでプロフェッショナルコーチとしても活躍する小寺毅さんが提唱したものです。
以下の12項目です。
「早すぎるアドバイス」の罠
「自分の話」の罠
「中断・遮り」の罠
「見当違いの共感」の罠
「解釈」の罠
「重要性の否定」の罠
「停滞」の罠
「たえまない否定」の罠
「お説教」の罠
「中傷」の罠
「皮肉」の罠
ノンバーバルな否定表現
少し説明を要する項目もあります。
「自分の話」というのは、部下の話を聞いてすぐに自分の体験に置き換えてしまうこと。
「見当違いの共感」は「わかる、わかる」というものの、部下は「そうじゃないんだけど」と思っているような状態です。
「解釈」というのも、部下の話を自分勝手に解釈してしまうことで、いずれも部下の話を十分に聞かなかったり、部下の気持ちから遊離したりして、部下に、「この上司には言っても仕方ない」という気にさせてしまいます。
「停滞」というのは同じことの繰り返しにしてしまっていること。
「中傷」や「皮肉」は相手の人格否定につながり、場合によってはパワハラになることもあります。
ノンバーバルは非言語コミュニケーションと訳されます。
「ノンバーバルな否定表現」というのは、たとえば、腕組みや反り返るような姿勢、眉間にしわをよせたり口をへの字に曲げたりといった表情をすることで、受け入れない、話を聞いてもらえないという気持ちに相手をさせてしまうものです。
これらの「罠」には無意識のうちに陥っていることが多いものです。
また、若い人との間のジェネレーションギャップが、いいコミュニケーションを妨げる場合もあります。
一度、自分で部下と接するときの自らの態度や言葉の癖を評価してみてはどうでしょうか。
さらに言えば、部下をはじめ周りの人間に「12の罠」について自分を評価してもらうという方法もあります。
自分では思いもよらなかった厳しい評価が下されることが往々にしてありますから、少し怖いものですが、実際に、部下や同僚に査定してもらう仕組みをつくって評価に生かす取り組みをしている会社もあります。
いずれにしても、自分が部下からどのように思われているかということは、統率力を発揮したいならば押さえておかなければならないポイントでしょう。
スキルを身に着け、人格も磨きましょう
チームを一つにして引っ張っていくうえで絶対守らなければならないことの一つが公平さです。
評価においてはもちろんですが、仕事の割り振りにおいても同様です。
適性を見極めることが必要で、何でもこいつに任せておけば安心とばかりに、特定の人間にだけ大事な仕事を任せるのはよくありません。
さらに、部下に対する評価を下したり、チームで方針を決めたりするときに気をつけたいことがあります。
中国古代史や日本でも戦国時代を舞台にした読み物に「佞臣」という言葉がよく出てきます。
主君にこびへつらう家臣のことで、佞臣を重用することほど危険なことはありません。
なぜなら、佞臣から発する言葉は、決して事態を客観的に把握して最善の道を示そうとする意見ではなく、あくまで主君の気持ちを先取りして、歓心を買うためのものにすぎないからです。
会議などでも、あなたの判断が間違っていると思ってもそれを指摘しないのですから、聞いている方としては気持ちがいいかもしれませんが、組織としては判断を誤ることになってしまいます。
いい面も悪い面も含めて人の言葉の真意を見抜く目が必要でしょう。
以上見てきたように、統率力を持ったリーダーになるには、与えられた仕事についての力量以外に、多くのスキルを身につけなければならないことが分かります。
中でも、人格的に尊敬を得られるようになれば、多くの部下はついてくるでしょう。
最後に、リーダーについてのいくつかの言葉を紹介しておきましょう。
人を動かすには模範を示すことが大切だ。というより、それしかない。
(医師としてノーベル平和賞を受賞したアルベルト・シュバイツァー)
リーダーは好かれなくてもいいから、信頼されなければならない。嫌われることを恐れている人に、真のリーダーシップはとれない。
(元プロ野球監督、野村克也)
人を動かすことのできる人は他人の気持ちになれる人である。他人の気持ちになれる人というのは自分が悩む。自分が悩んだことのない人は、まず人を動かすことはできない。
(ホンダ創業者、本田宗一郎)
あなたもさらに高レベルのスキルを身に着け、自らの統率力の下で仕事を成功させて、部下とともに喜びたくありませんか?