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専門コラム 第57話 社員の個性を大切にして組織力を最大化し、正しい営業スキルで業績を向上させる。

幕末明治の人材を多数育てた吉田松陰

幕末から明治にかけて幾多の人材を輩出した松下村塾。

長州藩を尊王攘夷でまとめて実践した高杉晋作や久坂玄瑞らは江戸幕府との戦いの中で命を失いますが、伊藤博文や山形有朋はともに内閣総理大臣を務めるなど明治新政府で枢要な位置を占め、日本の新しい進路を拓きました。

 

彼らが育った背景には吉田松陰の大きな影響があったのは言うまでもありませんが、松陰が松下村塾の塾頭を務めたのは、わずか2年にすぎません。

そう聞くと、驚きとともに、なぜそんな短期間であれほどの人材を輩出できたのかという疑問が沸き起こるのを禁じ得ません。

 

大器をつくるには急ぐべからず。

学問とは、人間はいかに生きていくべきかを学ぶものだ。

こんな言葉を残した松陰は、松下村塾での講義でもモノを詰め込むという教育をしませんでした。

松陰の講義は、彼自身と塾生たち、あるいは塾生同士の議論が中心でした。

もちろん、1対1で論文の添削をすることもありましたが、教えるというのではなく、ともに学ぶという姿勢で貫かれていたのです。

 

松陰が塾生に対する際に心がけていたもう一つが、相手の長所を伸ばすことでした。

 

平凡で実直な人間などいくらでもいる。しかし、事に臨んで大事を断ずる人物は容易に求めがたい。人のわずかな欠陥をあげつらうようでは、大才の士は求めることができない。

一般化して言えば、どんな人間も一つや二つは素晴らしい能力を持っており、その素晴らしいところを大切に育てていけば一人前の人間になる、ということです。

 

先に挙げた高杉晋作は、誰もが認める大才の人で、機略縦横と評されましたが、頑固で人の言うことを聞かない偏屈さも持っていました。

見かねた桂小五郎(後の木戸孝允)が松陰に「何とか言ってやってほしい」と手紙にしたためたところ、松陰は「その頑固さが高杉の魅力であり、強制すれば彼の良さが消えてしまう」と逆に、桂小五郎をなだめたそうです。

 

一方で、高杉の弱点は勉強嫌いにあると見抜き、高杉の幼馴染である久坂玄瑞を事あるごとにほめました。

面白くない高杉はこれに発奮して猛烈な勢いで学問に打ち込み、その才能を開花させていったといいます。

 

松下村塾は下級武士や農民でも学ぶことができました。

それぞれ環境も経験も異なる塾生の長所や短所を、松陰は実によく見極めて、個々相応の対応をとったようです。

ここにも松陰の教育者としての資質を見ることができるでしょう。

 

「実行第一」を掲げた松陰が企てた密出国

人を育てるということは、重要であることは言うまでもなく、特に上に立つ者にとっては崇高な使命でもあると思います。

多くの先達が人材育成に関してさまざまな言葉を残しているのも、このためでしょう。

 

やってみせ、言って聞かせ、やらせてみて、ほめてやらねば人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば人は育たず。

太平洋戦争時の連合艦隊司令長官、山本五十六の有名な言葉です。

 

誰でも怒ることはできる、それは簡単なことだ。しかし、正しい人に、正しい程度に、正しいときに、正しい目的、正しい方法で怒ること、それは簡単ではない。

古代ギリシャの哲学者、アリストテレスの言葉ですが、これも指導者たるものへの戒めと受け止められます。

 

人にものを教えることはできない。みずから気づく手助けができるだけだ。

天文学の父と称されるガリレオ・ガリレイはこう言いました。松陰の指導方針にも同じ思想がうかがえます。

 

「名選手、必ずしも名監督にあらず」とはプロ野球の世界でよく言われることです。

その裏返しとして、現役時代は大した成績を挙げていなくても、指導者として名選手を多く育て上げた人はいます。

 

彼らは自分の経験だけに寄りかからず、自分なりに勉強を重ね、それを自分の中で体系化して、分かりやすい言葉で説いたのではないでしょうか。

それが相手の信頼を呼び込み、素直に耳を傾けようという気にさせたのではないかと思います。

 

山本五十六の言葉ではありませんが、勉強も含めて自ら実践すること。

そして、信頼されるに足る人間であることが、人を育てるうえで欠かせない要素だと思います。

 

松陰は「実行第一」と、よく口にしたそうです。

彼自身が黒船に乗り込んで密出国しようとして謹慎処分を受けたことから分かるように、言葉通り、思いを実行しようとしたのです。

この言動の一致が信頼を得る一つの力になったことは否定できないでしょう。

 

正統派の営業スキルを育んだ社史勉強会

もう一つ、松陰の言葉を紹介しましょう。

 

大事なことを任された者は、才能を頼みとするようでは駄目である。知識を頼みとするようでも駄目である。必ず志を立てて、やる気を出し努力することによってうまくいくのである。

松陰が人を育てるにあたって、何を大事に思っていたかがよく分かる言葉です。志は才能や知識からだけでは生まれません。

 

そして、その志を実現するために求められることとして、次の言葉を残しています。

夢なき者に理想なし

理想なき者に計画なし

計画なき者に実行なし

実行なきものに成功なし

故に、夢なき者に成功なし

 

志や夢は、学問においても実践においても大きなモチベーションになります。

組織全体が一つの志や夢を共有しておれば、その組織はとても強力なパワーを持つことでしょう。

では、どうすればそれが実現するのでしょうか。

 

ある機器商社では、社史を使って1年間にわたって自社の勉強会を続けたそうです。

その結果、創業者や創業精神への理解が深まったといいます。

それは、予期せぬ効果を生みました。

 

まず、取引先との会話で創業者の話が出てきたとき、それまでは適当に話を合わせるだけだったのが、生きた会話ができるようになったといいます。

当然、取引先の好感度はアップしたでしょう。

 

同時に、創業の理念や社風を高く評価されているという実感を抱くことができ、社員の自信や誇りにつながったそうです。

 

また、とっくに生産中止になったのに現役として使われている商品があることに気づき、これが新しい商品開発のヒントになったともいいます。

 

社史の勉強会が、正統派の営業スキルを身につけさせたと言えるのではないでしょうか。

 

個々の営業のやり方にはそれぞれスタイルがあっていいと思います。

組織として正しい方向を向いていればいいのです。

 

あなたも社員の個性を大切にして組織力を最大化し、正しい営業スキルで業績を向上させたくありませんか。