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専門コラム 第31話 新設住宅着工戸数から考えるこれからの住宅建設

                                   

家を失う悲しみ、苦しみ

9月、10月と立て続けに日本を襲った台風は関東から東北地方、そして長野県を中心に大きな被害をもたらしました。

1階の天井まで泥水に浸かった家屋や、水の勢いでえぐられた土台とともに崩れ落ちて流される民家の映像は、胸痛むものがありました。

                    

マイホームの無残な姿が住民の皆さんに与えた失意と絶望感は、容易には想像できないほど深いものでしょう。

ニュースでは次第に取り上げられなくなってきていますが、被災地では今も、精神的、肉体的、経済的苦闘は続いているのです。

          

被災者の多くは、自宅の補修を行って住み続けることになると思いますが、災害は愛着のある土地からの離脱を余儀なくさせることが、しばしばあります。

            

まもなく発生から25年を迎える阪神大震災の被災地、神戸市長田区を訪れると、広くなった道路と新しい住宅の間に、点々と空き地が混在します。

元の土地での住宅再建をあきらめた跡です。

同区では震災前に13万人あった人口が、今や10万人を切っています。

もともと進んでいた空洞化に、地場産業の衰退が拍車をかけました。

復興の遅れが転居を強いた面もあります。

                 

同様の傾向は、東日本大震災の被災地でも進んでいます。

それでも、別の地であっても住宅を再建できる人は恵まれていると言えるでしょう。

新たな借金を抱える余力のない人、特にお年寄りらはどうすればいいのでしょうか。

            

何十年に一度、100年に一度と言われるような自然災害は今後、増えていくことが確実視されます。

その際に、生活の基盤である住宅の再建には、より手厚い対策が必要です。

阪神大震災後、被災者生活再建支援制度ができ、被災住宅の建て替えや補修に公費が補助されるようになりました。

しかし、支給額は建て替えにはまだまだ十分とは言えないのが現実です。

                 

多くの人にとって一生で最大の買い物である住宅の本当の価値というものは、失って初めて気づくのかもしれません。

明日は我が身でもあります。

マイホームの持ち主が家に抱く深い思いを、住宅に携わる人は忘れてはならないと思います。

首里城炎上と江戸の大火

水害の恐ろしさに身を震わせていたら、今度は火災の怖さです。

              

10月31日未明、沖縄のシンボル、首里城の正殿から上がった火の手は瞬く間に城中心部の建物をなめ尽くし、7棟が全焼する大火となりました。

こちらは住宅とは違いますが、炎に包まれた梁が焼け落ちる様子をわが家に置き換えて見た人もいたのではないでしょうか。

             

火事と言えば、「火事と喧嘩は江戸の華」と言われたほど、江戸時代の江戸の町には火事が絶えませんでした。

中でも、「明暦の大火」(1657年)は江戸市中の3分の2を焼き尽くし、江戸城の天守閣までも焼け落ちました。

死者は5万人とも10万人とも言われるほどの大災害でした。

                 

この大火をきっかけに、さまざまな防火対策が講じられました。

延焼を防ぐための空き地である火除地や火除堤が設けられ、道路も最大で約18メートルにまで拡幅。

新しい藁葺き、茅葺き屋根は禁止され、既存の藁葺き、茅葺き屋根は土を塗って防火対策を施すように命じられました。

                

さらに、町民の集団移転、消防体制の強化が図られ、大火後も江戸の市街地はさらに拡大していきます。

一方で、復興施策の推進や町民支援のために莫大な費用を要したため、幕府の金蔵は空っぽになってしまいました。

                 

中央集権体制であったからこそ可能だった施策も多いのですが、超高齢社会である現代を顧みて、政治の取り組みを含めて再建・復興に向けたこのようなエネルギーが、いざというときにどこまで湧いてくるものか、多少の疑問も感じざるを得ません。

少なくとも、ほとんどの人は一人では立ち直れないでしょう。

長期減少傾向を避けられない新築住宅

さて、首里城が大炎上した同じ日に、国土交通省は9月の新設住宅着工戸数を発表しました。

総数は前年同月比4・9%減の7万7915戸。持ち家は同3・5%減の2万4008戸、貸し家は16・8%減の2万9414戸。

分譲住宅は大きく増え、中でも分譲マンションは1万2022戸で34・6%増となりました。

分譲戸建て住宅は0・1%増の1万1889戸でした。

              

過去の住宅着工戸数を見てみると、景気動向や国の施策の影響を強く受けていることがうかがえます。

バブル経済真っただ中の1987年の総戸数は170万戸もありましたが、バブル崩壊後まもなく大幅に減り始めます。

いったん持ち直したかに思えましたが、リーマンショック後の2009年には大きく落ち込み、相続税法が改正された2015年以降は貸し家戸数だけが急増しました。

               

住宅着工は長期減少の流れにあるのは間違いありません。

野村総研が今年6月に発表した2019年度~2030年度の新設住宅着工戸数の予測によると、総戸数は2018年度の95万戸から2025年度には73万戸、2030年度には63万戸に減少していくとしています。

2030年度の内訳は持ち家20万戸、貸し家27万戸、分譲16万戸です。

           

その原因として第一に挙げられるのは人口減少です。

世帯数こそ増えていますが、その背景にあるのは独居の高齢世帯の増加ですから、住宅新築にはつながりません。

また、住宅の長寿命化や、若者の意識の変化、つまり、モノへの執着心の薄さも原因として指摘されます。

        

一方で、空き家は増え続け、リフォーム需要が伸びています。

同予測は、リフォーム市場は6~7兆円で横ばいが続くとみています。

施主さんが求めるいい住宅会社とは

こうした状況において、今後の住宅建設はどうあるべきなのでしょうか。

高度経済成長期以降21世紀に入るまでの間は、スクラップ&ビルドで建築戸数を増やすビジネスモデルが成り立っていました。

           

しかし、もはやこうしたやり方が通用しないのは、今まで述べてきたことでも明らかです。

一時的に増えた貸し家も、建築に適した用地が見つけにくくなり、相続税対策としてハウスメーカーや金融機関に進められて無理に建てたアパートなどは、居住者確保に苦労する事態がすでに生じてきています。

        

これから大切なのは、住宅建設を希望する人の意向やライフスタイルに十分に配慮し、一人一人に適した住宅を提案していくことではないかと思います。

量から質への転換です。

施主側にも災害対応やエネルギーの効率利用といったソフト面に目を向ける姿勢が求められますが、それらも含めて、お客様と一緒に、本当に求めるより良い住宅を考える姿勢が、一段と重要になってくると思います。

建てる方としても、専門家としての視点とアイデア、そして自分の思いを具現化できるプロを求めています。

施主さんはみんな、「いい会社に巡り合えて良かった!」と思いたいのです。