専門コラム 第10話 夢が膨らむドキドキ感を味わう
コピーライター、平賀源内のアイデア
18世紀の江戸。夏場に脂の乗りが悪くなって売り上げが落ちることに悩んだ鰻屋から相談を受けた平賀源内は、「土用の丑の日にウナギを食べると滋養になる」と説いて、その鰻屋の店先に「本日丑の日」と書いた看板を吊り下げさせたところ、店は大繁盛。他の店も真似をするようになったことから、土曜の丑の日にウナギを食べる習慣が定着していった。
土用の丑の日にウナギを食べるようになったいわれには諸説ありますが、最もよく知られているのが、この源内説です。源内は静電気発生器「エレキテル」を復元したことで知られていますが、本草学者や地質学者、浄瑠璃作者、発明家などとしてさまざまな分野で活躍した多才な人物で、今でいうコピーライターの才能もあったようです。
ウナギには疲労回復効果のあるビタミンAやビタミンB群が多く含まれているため、蘭学者で医者でも会った源内は、うまくその知識を生かしたのかもしれません。
こうした集客方法は、バレンタインデーのチョコレートや節分の恵方巻などにも通じます。バレンタインデーの歴史はローマ帝国時代にさかのぼりますが、女性から本命の相手にチョコレートを贈るという風習は日本独自のもので、定着したのは1970年代から80年代といいます。「愛の日」とされたバレンタインデーに目を付けた菓子・チョコレート業界の仕掛けがあったというのが通説になっています。
一方、節分にその年の恵方を向いて巻きずしを丸かぶりするという風習の起源は不明ですが、寿司業界や海苔業界が仕掛けて広まったと言われています。「恵方巻」という名前が全国に知られるようになったのは、1989年にセブンイレブンの広島の店が始めたのがきっかけだというのははっきりしています。
今では多くのコンビニやスーパーが実施していますが、売れ残った巻きずしが廃棄されることが問題になるとは予想もしていなかったでしょう。
それぞれ着眼点の良さに感心させられますが、こうして見ると、一つの共通点が浮かびます。それは、人々の心の願いに働きかけたものであるということです。
江戸時代は平均寿命も今と比べるとはるかに短く、栄養不足のため夏バテから寿命を縮める人も少なくありませんでした。夏バテ解消は、健康でいたい、長生きしたいという庶民の潜在的な欲求につながっていたのでしょう。また、バレンタインデーは愛を、恵方巻は満願成就を願う気持ちを射止めたといえるのではないでしょうか。
世阿弥のマーケティング論
皆さんは世阿弥という名前を聞いたことがあるでしょう。父の観阿弥とともに室町幕府3代将軍の足利義満の庇護を受け、猿楽(現在の能)を舞台芸術にまで高めた功労者として知られます。
世阿弥は「風姿花伝」や「花鏡」といった能の芸術論や技術論を書き残しています。有名なのが「初心忘るべからず」です。ただ、能も観客が来てくれないと商売になりません。世阿弥は「観世座」という一座のプロデューサーでもありましたから、両書には現在で言うマーケティング論に通じる言葉が随所に残されています。
秘すれば花なり
時に用ゆるをもって花と知るべし
「風姿花伝」には「花」という言葉がよく出てきますが、この2つの言葉における「花」は「観客に感動を与える力」と理解すればいいでしょう。
上は「花は秘密にすることで花になる」、つまり、舞台芸術は観客に知らせないでおくことで感動を与えられるということです。言い換えれば、サプライズの重要性ということです。
下は「物事の善悪は、その時に有用なものが善、無用なものが悪である」、つまり、その時々の観客に応じて上演することの大切さを指摘した言葉です。現在でも、一流の漫才師は観客の年齢層や会場の盛り上がり方などを見てその日の演目を決めるといわれるのに通じていますね。
「花鏡」には「離見の見」という言葉もあります。観客の立場から見ること、つまり自分の芸を客観的に見なさいと説いた言葉です。反対語が「我見の見」です。自己満足になってはいけないと諭したものと理解できるでしょう。
顧客の心に響くユニークな集客を
さて、ビジネスはお客様をつかまないと商売になりません。どのようにして集客するかというと、その手段は非常に多岐にわたります。かつては新聞や雑誌広告、テレビ・ラジオ、あるいは看板などに限られていましたが、インターネットとSNSの広まりによって様変わりしました。ほとんどの会社は自社のホームページを持っていることでしょう。
価値観の多様化が指摘される現代ですが、一方で、付和雷同といえば言い過ぎかもしれませんが、若い人を中心に、はやりに乗り遅れたくないという気持ちが強いように思われます。食べ物でもファッションでも、「いいね」が一気に拡散して、たちまち流行が生まれたり、逆にネット上で「炎上」して総バッシングを受けたりする時代ですから。
こうした点でSNSは有効なツールと言えますが、闇雲に情報発信しても成功の確率は低いでしょう。ポイントは、自分のビジネスの顧客がどこにいるかを知ることです。そのうえで、ターゲットの年代や性別、趣味嗜好などに合わせてツールを選択し、想定顧客の間でブームを起こす工夫が必要になってきます。
話は飛びますが、南海キャンディーズの山里亮太さんと女優の蒼井優さんの結婚は、大きな衝撃をもって受け止められました。テレビの街頭インタビューや芸人仲間からのコメントを見ると、いかに大きなサプライズだったかが分かります。しかも、ほとんどが肯定的に受け入れているのですから、まさに「秘すれば花なり」です。
サプライズはブームを起こすのにかっこうのアイテムだと言えるでしょう。加えて、2人そろっての記者会見で、互いを思いやる気持ちが随所に現れていたことが、見る人の心に響いたと思われます。
テクニックやツールに溺れるとかえって離反を招きやすくなります。アイデア次第ではありますが、人の深層心理に働きかけることが成功につながると言えるでしょう。一度火がつくと、瞬く間にブームが起こります。
あなたは、人の心をつかむユニークな集客を行い、夢が膨らむドキドキ感を味わいたくありませんか?