専門コラム 第3話 人とは違うやり方で独自のブランディングを確立する
精を出すことは美しい、しかし・・
田舎では、道の掃除や畑仕事をしている人に対する「精を出しておられますね」という言葉はねぎらいであり、褒め言葉でした。何事にも精を出すことは尊いことであり、一生懸命に一つのことに打ち込む姿は美しいものです。ただ、精を出してもその成果が出なければ、つらく哀しく映ります。
ですから、成果を挙げるための最適な方法を見つけ出す必要があります。仕事においては、成果が上がってこそ人のためになるのであり、社会に役立つのですから。
仕事に精を出して成果を出す方法は、一つではありません。ただ、一つ確実に言えるのは、他人と同じことをやっていては、成果を最大化できないということです。
その点で注目されているのがブランディングです。自分が扱う商品やサービスを価値のあるものと相手に認識させて、競争の中で優位に立つマーケティング戦略の一つですね。
ブランドといえば、コカ・コーラのあの独特の形状をしたボトルやナイキやアップルのロゴ、ヨーロッパの高級ブランドと呼ばれるようなバッグやファッションなどが有名ですが、国内で脚光を浴びたのが今治タオルです。
今治タオルが教えるブランディングのポイント
100年余の歴史を持つ今治タオルは一時期、安い輸入品に押されるなどして苦境にあえいでいました。起死回生の打開策として取り組んだのがブランディング戦略です。その知恵袋になったのが、著名なグラフィックデザイナーでありクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんです。
佐藤さんの戦略の一つが「白いタオル」でした。
佐藤さんは、「今治タオル奇跡の復活 起死回生のブランド戦略」でこう語っています。
ブランディングに必要なのは「これが今治タオルです」ということを一目でわかってもらうための象徴的な商品であり、それを僕は「白いタオル」に設定した。
水の品質を伝えるときに、いきなりコーヒーを淹れて出しますか? 炊き立てのごはんのおいしさを伝えるのに、カレーをかける必要がありますか?(略)今治タオルのすばらしさを、余計な要素を加えずに伝えるには、「白」しかないんです。
佐藤さんは当初、この話に乗り気ではありませんでした。しかし、プレゼントされた今治タオルを手にした瞬間、180度気持ちが替わったそうです。「柔らかくて風合いが素晴らしく心地いい。体をふく感覚でなく、肌に当てるだけで水けをどんどん吸い取ってくれる」品質の素晴らしさに心を奪われたのです。
今治タオルはもともと品質の高さには定評がありました。他にはない強みであったのに、低価格競争に身を投じてしまったために、タオル生産者自身がその強みを忘れていました。佐藤さんは今治タオルとは無縁だったからこそ、ブランディングで最も大切な商品の強み、他を圧倒する品質の良さに感動したのです。だからこそ、「白」にこだわったのです。
大谷選手が示すセルフブランディングの可能性
ブランディングは企業だけのものではありません。個人としても大変効果的ですし、お金をかけなくてもできます。それがセルフブランディング(パーソナルブランディング)です。
すぐに思い浮かぶのが、大リーグで1年目から素晴らしいスタートを切った大谷翔平選手です。ベーブルース以来の唯一無二の「二刀流」というブランドで、自分自身のブランド化に成功したと言えるでしょう。次の言葉は「大谷語録」の一つです。
誰もやったことがないから、自分しかやっていないから、「自分にしかできない仕事」がもしかしたらあるかもしれないから、二刀流をやっています。どのジャンルにおいても、そういうのは魅力的です。
大谷選手は別格と言えば別格でしょう。しかし、彼のような才能がなくてもセルフブランディングは可能です。たとえば、フォロワーの多い人気YouTuberやブロガーも最初は無名でした。ライバルがあまたいる中で、突出するようになったのは、以下のポイントを実践したからです。
- 自分の強みを知る
- 強みを最大限に発揮できるジャンル、ターゲットを絞る
- 効果的に発信する
セルフイメージが行動を縛る
さらに重要なのが、お客様の共感を得ることです。仕事におけるセルフブランディングが目指すものは、「この人だから買おう」「この人の勧めるものだから安心だ」と思ってもらえる関係を顧客との間につくることでしょう。自分という人間が、お客様の感性に響く存在にならならなければいけないのです。
そのためには、まず自分を知ることが必要です。ただし、気を付けなければならないのは、セルフイメージにとらわれすぎてしまうことです。
セルフイメージとは文字通り、自分が抱いている自分自身の姿です。これは過去の体験によってつくられ、人は知らず知らず、セルフイメージに沿った行動をとるとされます。
たとえば、これまでの経験で自分はモテないというイメージを持っていたら、女性に対して消極的になります。自分は営業が下手だ、初対面の人と話すのが苦手だと思っていれば、お客様に積極的に接することができなくなってしまうのです。
ただし、セルフイメージは大抵の場合、周りから見た自分と一致しませんし、高めることができます。大谷選手もこう言っています。
頭で最初に考えて、そして後からモノができる。160キロを投げる姿がある。そこに後からできる現実がある。
自分はここまでしかできないのかなと、憶測だけで制限をかけてしまうのはムダなことだと思います。
ここで言う「憶測」がまさに、セルフイメージでしょう。
セルフイメージを高めるために
セルフイメージを高める方法の一つが大谷選手の言葉にあります。自分がなりたい人間をイメージすることです。その姿と現在の自分を比較して、足りない部分を補う努力をするのです。一歩近づくごとに自信が付き、誇りを持てるようになります。
また、自分を前向きに変えるには、いい面、つまり成功体験だけを拾い集めることもいいでしょう。決して、ネガティブにならないでください。たとえば、あなたが営業マンなら、
- アポ取りの電話をかけるのは好きだ
- 初めてのお客様でも話をするのが苦ではない
- お客様の話を根気よく聞ける
- 笑顔がいいと言われる
- 清潔感があるとほめられる
- きれいな日本語を明瞭に話せる
- 商品知識が豊富だ
- プレゼンテーションには自信がある
何でもいいですから、自信のあることを見つけ出してください。それがあなたを変えるきっかけにも、自分だけのやり方を見つけるヒントにもなります。
最後に、大谷選手も尊敬するイチロー選手の言葉を紹介しておきましょう。
自分の持っているものを活かすこと。そう考えられるようになると、可能性が広がっていく。
あなたはセルフイメージを高めて独自のブランディングを確立し、誇らしく思える自分になりたくはありませんか?