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専門コラム 第8話 だれからも信頼される上司として目標を達成する

ゴールオリエンテッドな大谷選手

大リーグエンゼルスの大谷翔平選手が花巻東高校1年のときに目標達成シートを作成し、その通りにプロ入りを実現したことをご存知の人は多いと思います。

シートは縦横各9マスに区切られ、中央に「ドラ1 8球団」と目標を記入。目標を実現するための要素として「体づくり」「コントロール」「キレ」「メンタル」「スピード160km」「変化球」「運」「人間性」「メンタル」を掲げ、それぞれを達成するためにまた、それぞれに8個のテーマを設定しました。

昨年の大リーグ1年目にもこれと同じ手法で課題に取り組んで成果を挙げたのでしょう。右ひじ手術から復帰途上の現在も、恐らく同じステップを踏んでいることと思います。

このように、目標を設定して、そのゴールから逆算して行動することを「ゴールオリエンテッド」と言います。このやり方だと目標がブレることなく、課題を一つ一つつぶしていくことで目標達成が近くなるのですから、行動理論としては理にかなっているのは確かです。その意味で、大谷選手は「ゴールオリエンテッド」の最高の成功例と言えるでしょう。

「ゴールオリエンテッド思考」と対極に置かれるのが「プロセスオリエンテッド」です。アメリカの多くの企業で実践されているリーダー育成のためのコーチングでよく用いられます。コーチからの問いかけと自分への絶え間ない問いかけを通して創造的な答えを見つけ出していく手法です。 コーチは問いかけを繰り返すだけで、答えは提示しません。

プロセスオリエンテッドは、その段階段階で取り組んでいることに正面から取り組み、自分に向き合うことを重視します。極端な話、その結果はどこに到達するかはわかりません。

2つを比べると、仕事において優れているのはゴールオリエンテッドと言わざるを得ません。目標に向かって最短ルートをとるわけですから、達成の確立も上がるでしょう。ただし、生き方として考えれば、プロセスオリエンテッドも捨てたものではありません。

プロセスオリエンテッドの効用

人生はプロセス(過程)の連続です。その場面場面で最善を尽くし、結果をフィードバックするという習慣をつけていけば、自分を磨くことができます。一見、道草をくっているように思われるかもしれませんが、道草が思いもよらない発見を生むこともあるのです。

台所用品として重宝するサランラップ。もともとは、第二次大戦中に米軍の武器弾薬を湿気から守ったり、水虫対策としてブーツの中敷き代わりに使われたりしたフィルムだった。戦後、有効な使い道がなかったのだが、メーカーの2人の技術者が奥さんとともにピクニックに行った際、1人の奥さんがこのフィルムでレタスを包んで持参。水分が飛ばず、衛生的で手軽に持ち運べることに着目したことから、現在のラップの用途が開けたという。ちなみに、2人の技術者の奥さんの名前がサラとアンだった。

こんな例もあります。

世界初の抗生物質として多くの人を救ってきたペニシリン。発明者のフレミングはもともとブドウ球菌の研究をしていた。あるとき、誤って培養器の中にアオカビを発生させてしまった。本来なら捨てるところだが、彼はカビの周りには菌が繁殖していないことに気づいて研究を進め、カビからペニシリンを抽出することに成功した。

素敵な偶然に出会ったり予想外の発見をしたりする能力をセレンディピティと呼びます。しかし、「偶然」と言っても単にツキがあるということではありません。ノーベル化学賞を受賞した北海道大学名誉教授の鈴木章さんはこう言っています。

何もやらない人はセレンディピティに接する機会はない。一生懸命新しいものを見つけようとやっている人には顔を出す。

ゴールオリエンテッドは目標達成に向けた大変有効な手法です。大いにトライしましょう。しかし、新しいものを生み出すのはそればかりではないこと、場合によってはプロセスオリエンテッドが、ゴールオリエンテッドでは考えられない素晴らしい成果を生み出す可能性があることも知っておいた方がいいでしょう。

リーダーはグッドレシーバであるべし

1億総中流社会と言われた昭和の高度経済成長期は、だれもが一つの方向に向かってひたすら駆けていました。頑張った先に豊かな生活が待っていることが約束された時代だったからです。

しかし、バブル崩壊後、社会は大きく様変わりしました。日本の金融機関の疲弊につけこんでアメリカ流金融資本主義が日本になだれ込み、格差が激しくなった後は価値観が多様化し、一つのアプローチがすべての正解を導くという時代ではなくなりました。

あなたがリーダーの立場であったら、価値観の多様化から目をそらしていては、成功は覚束ないでしょう。

日本を代表するリーダーシップ論に「PM理論」というのがあります。九州大学と大阪大学で教鞭をとった三隅二不二さんが提唱したもので、PはPerformance(目的達成機能)、MはMaintenance(集団維持機能)のことです。Pは強くて頼りがいのある父型のリーダーシップ、Mは寛容で包容力のある母型のリーダーシップと言えます。

三隅さんはビジネス現場の調査を長年にわたって続け、リーダーの行動特性をPM、Pm、pM、pmの4タイプに分類しました。小文字はその機能が弱いことを指します。つまり、Pmタイプは叱り飛ばしてでも成果や目標を達成することに邁進し、pMタイプはむしろ、包容力をもってチームをまとめ上げるタイプということです。

リーダーに最もふさわしいのは、どちらも兼ね備えたPMタイプですが、大抵の人は性格によってPmかpMに偏っているものです。

大切なのは自分の弱い面を把握しておくことです。価値観が多様化しているということは、部下の人たちの考えや重視する点も異なるということですから、ケースバイケースで使い分けられなければチームをまとめることはできません。

バスケットボールの往年の名選手、マイケル・ジョーダンはこう言っています。

才能で試合に勝つことはできる。だが、チームワークと知性は優勝に導くことができるんだ。

チームワークの大切さ、つまりM機能が成功には不可欠だと指摘しているのです。

以前の当コラムでも言いましたが、現代は権威型のリーダーが通用する時代ではありません。みんなの共感を得ることがリーダーシップには不可欠です。

あなたがゴールを設定して目標を実現しようとするなら、部下である営業マンの心をつかむ必要があります。そのためには、一人一人の個性や特性を受け入れ、きめ細かい対応を見せなければなりません。リーダーはグッドレシーバであるべきなのです。

江戸時代の農政家、二宮尊徳にこんな言葉があります。

かわいくば、五つ数えて三つほめ、二つ叱ってよき人となせ

                                        

あなたは部下のハートをつかむ人心掌握術で、だれからも信頼される上司として目標を達成したくはありませんか?