専門コラム 第16話 お客様の人生すら変えるほどの影響力を持つ。
下足番と草履とり
下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。
そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ。
これは、阪急電鉄を核に阪急百貨店、宝塚歌劇団などの阪急グループ(現阪急阪神東宝グループ)を築き上げた小林一三の言葉です。
後の関白・豊臣秀吉が織田信長の草履とりをしていたとき、冬の寒い日に信長の草履を懐に入れて温めてから出した気配りが信長の目に留まり、出世の階段を駆け上がるきっかけになったという逸話を彷彿させるような言葉です。
出世や営業成績アップなど夢は何であろうと、与えられた場所で、いかに与えられた仕事に意欲をもって取り組めるかが人生を分けるのは間違いないでしょう。もちろん、意に沿わない場所や地位、仕事というのもあるでしょう。小林一三の言葉は、逆風や困難に相対したときこそふてくされず、落ち込まず、意欲的に取り組めと諭しているのです。
彼にはこんな言葉もあります。
成功の道は信用を得ることである。
どんなに才能や手腕があっても、
平凡なことを忠実に実行できないような若者は
将来の見込みはない。
信用を得るのもまた、自分の行動によってであるということす。
挑戦する姿勢と向上心があってこそ
「意欲的」という言葉は、辞書では「積極的に物事を成し遂げようとするさま」と説明されますが、より具体的には「挑戦」と「向上心」に深く結びついていると感じます。
成功するためには挑戦する姿勢を持ち続けなければならない。そのことは、世界の多くのスポーツマンや経営者、芸術家らが言ってきました。無理解、無関心という高い壁に遮られても信念を貫き、貧しい人たちの救援活動を続けてノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサさえこんな言葉を残しています。
神様は私たちに成功してほしいなんて思っていません。
ただ挑戦することを望んでいるだけです。
確かに、挑戦する気概がないと、壁を打ち破ることも成長もないでしょう。ただ私は、意欲を持ち続けるために心の内に留め置かなければならないのは向上心だと考えています。もっといい方法はないか、より高みを目指すためには何が必要かという意識を常に持つことです。
向上心がある人は、まず目標を持っています。それも、こうなったらいいなというような願望ではなく、こうなるんだという明確な姿を伴うものです。
当然、目標達成のための努力を惜しみませんし、失敗しても落ち込まず、むしろ成長の糧にしていきます。素直で前向きでもあります。
さらに、周りをよく見て、効率を考えたり状況を把握したりする観察力・洞察力にも優れているはずです。
つまり、向上心とは自分の内面を磨き上げるものなのです。単に、ライバルに勝つとか成績アップを目指すことにとどまりません。そして、自己抑制ができて前向きな向上心をバックボーンとした意欲的な行動であれば、周りの応援も得られるでしょう。
可能性とは「未来の能力」
人生に困難はつきものです。むしろ、困難があってこそ人生は豊かになると言えるでしょう。困難を乗り越えることで、より大きな満足感や喜びを感じるのですから。となれば、その困難に遭遇したときにどう対処するかによって、人間の値打ちが決まってくるのではないでしょうか。
ビジネスを例にとります。何としても落としたいお客様がいたとしましょう。そのお客様は長年、ライバルであるA社製品のファンで、いくら売り込もうとしても話も聞いてくれません。あなたはまず、自社製品とA社製品を比較して、自社製品の良さを強調するでしょう。あるいはサービスのメリットを訴えるかもしれません。
しかし、そうしたことによっては、お客様がA社あるいはA社製品に抱いている信頼感を突き崩すことはできません。それ以上に、慣れ親しんだものからはなかなか離れられないものです。
では、A社に抱いている信頼感や慣れからお客様をどう振り向かせるかというと、あなた自身への信頼感を勝ち取ることしかありません。その信頼感を生むのが、あなたの生き方であり、生き方を照らし出すお客様との接し方です。
意欲と向上心を持って、真摯に生き、前向きに仕事に取り組んでいる人は、清冽な印象を与えます。その清冽さが相手の心に涼風を送り、心の扉を開かせるのです。そうすることで、お客様の考え方、さらには人生すら変える可能性もあります。
ビジネス上の困難やトラブルはさまざまでしょうが、どんな問題にも突破口はあります。成否を分けるのは、どこまで突き詰められるかです。京セラ創業者の稲盛和夫はこう言います。
可能性とはつまり「未来の能力」のこと。現在の能力でできる、できないを判断してしまっては、新しいことや困難なことはいつまでたってもやり遂げられません。
ここで言う「未来」とは、決して遠い先のことではないでしょう。今は見えていないけれど、あと一歩で届くところにあるかもしれません。自分が思っている限界からの努力こそが、物事をやり遂げる力になると教えているようです。
1日を見直すことで自分を変えていこう
もし、何をしても壁を越えられない、あるいはもう一皮むけたい思っているのなら、自分を変えるしかありません。そのスタートは1日の使い方を見直すことです。家計簿をつけるように、自分の1日の行動を記録して、1カ月後にどんな時間の使い方をしたかを振り返ってみるのです。家計簿が冗費の支出を抑制するきっかけになるように、必ず時間の浪費に気づくはずです。
それが1年分貯まれば、どれだけの時間を、自分を磨き、変えることに使えることでしょうか。その時間を何に使うかに正解はないと思います。仕事に関する知識を得ることに費やしても、仕事を離れて自然の中で遊んでも、あるいは音楽や美術鑑賞に足を向けてもいいでしょう。自分を変えようと思えば、これまでと違う行動を生活の中に取り入れることが早道です。
他人と比較して、他人が自分より優れていたとしても、それは恥ではない。
しかし、去年の自分より今年の自分が優れていないのは、立派な恥だ。
これはイギリスの探検家、ラポックの言葉とされます。他人と比較しようとしても、ベースが違うのですから、本当の意味での比較にはなりませんが、自分なら比較できます。