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専門コラム 第17話 お客様に喜んでいただける商品やサービスを売る。

先読みと辺縁視野が無駄を排除する

東京大学教授で、渋滞のメカニズムを解き明かした「渋滞学」で知られる西成活裕さんに、「無駄学」という著書があります。

「渋滞は社会の無駄」と言い切り、渋滞による経済的損失は12兆円と算出しています。

社会には渋滞のような無駄が当たり前のようにある一方、無駄と思われていることでも、実はそうではないケースが多いことから始めた考察の集大成がこの著作です。

無駄かどうかの判定基準として、費用対効果がよく用いられますが、教育など成果が出るのに時間のかかる分野では費用対効果では、無駄かどうかは測れません。

西成さんは、本当のキーワードになるのは「目的」と「期間」だと指摘して、こんな例を挙げます。

アリ社会では、常に2割のアリは本来の仕事であるエサを巣に持ち帰ることはせず、あちこちをフラフラ歩き回っている。

一見、無駄なようだが、歩き回る中で新しいエサ場を発見したりしているのだ。次の食料を見つけるという目的達成の役に立っているのだから、長期的に見れば、2割のアリも決して無駄な存在ではないのである。

つまり、目的と期間を設定することによって、同じことでも無駄になったりならなかったりするというのです。

そして、無駄を除くには部分最適ではなく全体最適を追及することが必要であり、全体最適を可能にするには、未来を的確に予測する「時間的な先読み」と、自分がかかわっていることだけでなく、その周辺や他の工程にも同時に目を配る「辺縁視野」を持つことが重要だと指摘します。

たとえば、会議に出席するときにこの資料も必要かもしれないと考えて持っていけば、資料を求められたときに、それを取りに戻るという無駄な時間を費やしなくて済みます。

また、人間は自分の快楽を優先する傾向があり、これが無駄の発生につながるので、周囲に目配りをして周囲にとっての最適を考えることが無駄を防ぐことになるというのです。

渋滞学でもこんな指摘をしています。

渋滞が発生する原因の一つはブレーキランプの点灯。

車間距離を詰めすぎると、最初の1台がブレーキを踏むと後続車が連鎖的にブレーキを踏み、たちまち渋滞が広がる。

スピードを出しすぎた場合も、どうしてもブレーキを踏むことが多くなる。

急ぐ気持ちのあまり車間距離を詰めたりスピードを出しすぎたりすると、結局は損をする。仕事でも同じことで、渋滞を防ぐために大事なのは、闇雲にスピードを上げることではなく、流れを安定させることなのだ。

適度なゆとりや間は仕事の効率を高める

西成さんが言う「流れを安定させる」ことを、仕事のうえではどうとらえればいいのでしょうか。

営業という仕事を考えた場合、目的は製品やサービスを売ること。期間はケースバイケースではありますが、5年や10年といった長期的スパンはまず考えられず、せいぜい1年以内でしょう。場合によっては1カ月で成果を求められます。

しかし、そこで1カ月で成果を出そうとするのは「闇雲にスピードを上げる」ことになるのではないでしょうか。1カ月というのはあくまでこちらの都合であって、お客さまには関係ありません。

こちらの都合だけでゴリ押しすると、当然お客様は離れていきます。

ですから、1カ月ごとに成果を求められるにしても、お客様に対してはもっと長いスパンでお付き合いする気持ちが必要だと思います。

そのためには、今月キャッチしたお客様から成果を挙げるのは3か月後と決めて、そういうサイクルを築き上げることです。

最初は成果が上がりにくいかもしれませんが、サイクルが出来上がると余裕をもって、しかも確実に、成績は上がるはずです。

周りを見渡しても、営業成績の良い人ほど余裕をもって仕事をしていると感じるのではないでしょうか。適度なゆとりや間は、むしろ仕事の効率を高めることにもつながるのです。

では、その3カ月の間で何をするかです。

それは、お客様のことをより深く理解することでしょう。お客様のし好や願望、現在抱いている不満、あるいは人生観までも知ることが、必ず営業に生きてきます。

米ゼネラル・エレクトリック社のCEOを務め「伝説の経営者」と呼ばれたジャック・ウェルチはこう言っています。

事業を成功させようと思っているのなら、あらゆる顧客を満足させる努力をしなけれ ばなりません。わずらわしい顧客も、理不尽な顧客も、気難しい顧客もすべてです。

なにぶんにも顧客は親戚のようなものであり、こちらから選ぶことはできません。

ですから、顧客を愛する術を覚えた方がいいでしょう。

お客様のことをより深く理解するということは、お客様を愛することだと言い換えてもいいのではないでしょうか。

自分の事情よりお客様を優先する営業手法の確立を

西成さんによると、無駄には3種類あるといいます。

その一つが、自分自身の甘さからくる誘因型です。

怠慢や手抜き、誘惑に負けやすいなど、わかっているけど、ついついやってしまう無駄です。だから、「自分の快楽を優先させるため無駄が生じる」というのです。

あとの2つは、自分にとっては習慣となってしまっていて、他人から言われないと気づかない不覚型。そして、病気や事故に備えた保険のように、仕方がないと思える自然型です。

自然型はともかく、誘因型と不覚型は改善できます。

特に、誘因型は自分自身の心構え、覚悟一つで改めることが可能です。

営業で言えば、自分の願望はさておいて、お客様のことをどれだけ親身になって考えられるかということにかかってきます。その姿勢を自分の営業スタイルとして確立できれば、成果はおのずと付いてくるようになるでしょう。

「分かってはいるけど…」と思っている人には、スコットランドのことわざをプレゼントしましょう。

いつかしようと思っていることの「いつか」は、決してやってくることはありません。

                                

あなたは、自分独自の営業手法を確立して、お客様に喜んでいただける商品やサービスを売りたくはありませんか?