専門コラム 第95話 営業は「沈黙」を恐れてはいけない!
本コラム第93話 (サンキューレター「感謝の手紙を書く意味」を改めて考えてみよう) で、営業活動が「怖い」と感じたり、「断られたらどうしよう」とビクビクすることを「腰が引けている」と思う必要はないと書きました。
営業活動に対する恐怖心は、多かれ少なかれ誰もが持つものです。
これは、まともな人間だからこそ、感じる恐怖心なのですが、残念なことに「腰が引けているから感じる恐怖心」だと誤解している方、また、誤解されている方が大勢いらっしゃいます。
実はこのような誤解は、営業の世界には多く存在します。
今回取り上げる「沈黙恐怖症」あるいは「空間恐怖症」といったことも、そのひとつに数えられます。
ともすると私たちは、普段の何気ない会話であれ、顧客を目の前にした仕事の話であれ、なぜか「沈黙」するのを良しとしない、または落ち着かないといった傾向を示す場合があります。
中にはちょっとした時間の隙間も耐えられず、不要な相槌で埋め尽くそうとする方も見受けられます。
またそこまで酷くなくても、会話の相手によって「沈黙」を恐れる方は少なくないようです。
ただこれに似たことを、私たちは営業の現場でもやっています。
今日はお客様を前にした場面の「沈黙」について考えてみましょう。
営業は「沈黙」を恐れてはいけない!
家づくりは営業も大変だが、顧客はもっと大変
住宅営業の折衝では、顧客へのヒアリングが大事と言われます。
住宅営業はプラン要望の聞き取りもありますし、その前にそもそも敷地調査で建築地に赴く前に、お客様から聞き取った敷地の状況や特性なども、メモしておかなければなりません。
また折衝の状況によっては、なぜ当社を候補先に選んだかも聞いておきたい情報ですし、できるなら競合している会社の有無なども押さえておきたいところです。
もちろん可能なら、現在のお仕事の内容・勤続年数、ご夫婦の大凡の年収といった個人情報も聞かなくてはいけません。
その上で、最初にも言った「どのような家を希望するのか」も聞くわけですから(当然、1 回の面談で全部聞き出せるわけではありませんが)、住宅営業は他の営業と比べても、聞き出す内容は多岐にわたる業種です。
またプラン要望は打ち合わせの過程で変化します。
これは最初に考えていた要望があまりに漠然としていた場合もありますが、予算オーバーのために要望を変えなくてはいけない場合もあるでしょう。
しかし大変なのは営業だけではありません。
建主の側も営業以上に大変です。
なぜなら家をお願いする立場というのは、ほとんどの方が初めての経験です。
しかも要望に沿った家が理想としながら、彼らはプロとしての意見も参考にしたいと考えています。
そのような非常に複雑な思いを、お客様は抱えているのです。
もしタモリさんが営業担当だったら……
そのような想いを抱えている建主が常に考えていることは、これから建てる家に「私たちの想いがきちんと生かされているか」ということです。
そしてそれを可能にするために我々営業がいるわけですが、営業に備わっていて欲しいことが「沈黙」を恐れないという技術です。
皆さんにお聞きしますが、あなたがお客さんの立場なら、次の二つのうち、どちらを営業担当に選ぶでしょうか?
①ロケ先のレポーターがまだ全ての伝えたい情報を言い終わらないうちに、別の質問を被せてくるワイドショーの司会者。
②ジャニーズの新人にも、落ち着いて 3 秒ほど「間」を置いてから、次の質問を繰り出すタモリさん。
これはあくまで筆者の「つまらない予測」に過ぎません。
ただ、多くの方はタモリさんが営業担当だったら「失敗しない家が出来そうだ」と思うのではないでしょうか。
タモリさんは『ミュージックステーション』を見ても『ブラタモリ』を見ても、ちょっとやり過ぎかなと思うほど、十分な「間」を取って会話を進めます。
多分それは、長年にわたってテレフォン・ショッキングを繰り返すうちに、磨いた技だと思うのです。
そのためタモリさんのお相手は、年配者からもズブの新人まで、非常に満足した様子で会話を進めます。
言うまでもありませんが、この 3 秒ほどの「沈黙」を、営業は恐れてはいけません。
黙っているのが苦手な方も多いと想像しますが、こうした「間」が次の会話の続きを相手に喋らせます。
そして究極的には、この「間」が、顧客の玉手箱を開けさせるのです。
営業は聞かれたことを簡潔に答えれば良い
小慣れている営業は、みんな「沈黙」を恐れません。
そして売れている営業に限って、会話に「間」を持たせています。
逆に新人に多いのは「沈黙」を怖がるあまり、お客様に肝心な部分を聞き出せず、会話を終わらせること。
そんな調子だから、後からクレームを呼び込んでしまいます。
また自分が話し出すタイミングについてですが、これは相手から質問を受けた時です。
しかも話す内容は「聞かれたことだけ」を簡潔に答えます。
間違ってもここぞとばかりに、話し過ぎてはいけません。
調子に乗って長々と話すと、これまで続けてきた「聞く姿勢」が元の木阿弥です。
繰り返しますが、ここで自分の知っているネタを全て話す必要はありません。
聞かれたことだけ話せば良いのです。
また以前にも書きましたが、相手が存分に話し出すと、自分の会話を反芻する効果も出てきます。
これを「オート・クライン」と言います。
「オート・クライン」とは、人は自分で話したことを耳で聞いた時、初めてそのことを理解すると言うもの。
つまり営業では相手(顧客)に話させることは、とても重要なことなのです。
自分で話すことより相手に語って貰った方が、営業は多くの場合でうまく行くのです。
ここは改めて、押さえてかなければならないことでしょう。