専門コラム 第55話 腹を割って周りと話をして、人生を自分の力で正しくコントロールできるようになる。
岩崎弥太郎と渋沢栄一の対立
三菱グループの創始者、岩崎弥太郎は、若いころからけっこう傍若無人で、我が道を行くという生き方をしてきたようです。
明治になって社会が急激に変化し、諸外国の影響を受けて会社組織というものが国内でも次第に固まってきた後も、社長独裁を貫きました。
社規第1条はこう言っています。
当社はしばらく会社の名を命じ、会社の体をなすといえども、その実全く一家の事業にして、他の資金を募集し結社するものと大いに異なる。故に会社に関する一切のこと、全て社長の特裁を仰ぐべし
第2条では次のように言い切っています。
「利益も損失も社長のもの」と言い切っています。
こうした経営スタイルに加えて、背任横領と指弾されるような手法も駆使して、明治新政府や権力者を巧みに利用して会社を拡大させていったことなどに、風当たりは強まります。
弥太郎と対立した一人が渋沢栄一です。
渋沢と言えば「論語と算盤」で知られるように、商売にも道徳や仁義を求め、次の言葉を残した人です。
いかに自分が苦労して築いた富だ、といったところで、その富が自分一人のものだと思うのは、大きな間違いなのだ。
企業の公共性や社会的責任を重視した人で、弥太郎とは正反対の考え方の持ち主ですから、対立するのは当然と言えば当然でしょう。
同じ土佐出身で自由民権運動に後半生を捧げた板垣退助が率いる自由党などからも激しいバッシングを受け、三井との海上輸送をめぐる熾烈な競争の中、弥太郎は51歳で亡くなります。
三井との争いは、後を継いだ弟の弥之助によって和解を見ますが、弥太郎が生きていれば解決は遅れ、もしかしたら一敗地にまみれ、現在の三菱グループはなかったかもしれません。
何の後ろ盾もない下級武士の家に生まれた弥太郎であったがゆえに、自分の考えを貫き通して三菱を大きく発展させたと言えますが、同時に危機をも招いたのです。
自分の考えを貫くことを邪魔する同調圧力
弥太郎のような生き方に共感を覚える人は、日本では少ないのではないでしょうか。
現在のコロナ禍でも見えてきましたが、同調圧力が強いのが日本社会の大きな特徴であり、ほとんどの日本人に周りとの協調を重視する生き方が染みついているからです。
そのこと自体が悪いという気はありません。
周りとの協調を図る生き方は周囲との摩擦を引き起こしにくいため楽です。
仕事にしても、よほど圧倒的な力を持っている場合を除き、敵を不必要につくらないため、スムーズに運ぶでしょう。
裏返して言えば、これまで自分の考えを貫き通す生き方をしてきたあなたは、周囲との軋轢の中でけっこう苦労してきたことでしょう。
それでもそのやり方を貫いて成功してきたとしたら、それは立派なことです。
なぜなら、そうした生き方は「頑固」と紙一重で、あなたに対して、周囲の人たちの多くは「思い込みが激しい」「人の話を聞かない」「融通が利かない」「根拠のない自信家」などと陰口をたたき、およそ前向きな評価を与えてくれず、当然、協力も得にくいからです。
でもそうした陰口も、一面の正当性も持っています。
あなたも周りにそんな印象を与えていると思っていた方がいいでしょう。
自分の考えに固執する人は、それが絶対であるという固定観念にとらわれ、それゆえ、人の話を聞いたりそこに新しい価値観を認めたりしません。
プライドの高い人と似ているようですが、こちらは一つの分野について勉強を重ねたプロフェッショナルです。
その自負が誇りになっています。
これに対して、固執する人、頑固な人は、自分の好き嫌いが思い込みになってしまっているだけなのです。
自分のやり方で成功した人というのは、自分を客観的に評価したうえで周囲の無理解をはねのけて目的を達成したわけですから、立派なのです。
もちろん、失敗したら、それ見たことかとおとしめられることは覚悟しなければなりません。
自分の生き方を貫いて成功した人は、恐らく自制心と向上心が強いのでしょう。
異なる意見に対してかっとなる気持ちを抑えて辛抱強く耳を傾ける、あるいは自分の考えに絶対的な自信が持てるほど勉強し、新たな知識を仕入れるのに労を惜しまない。
そうでなければ、成功など望めないからです。
原を割ったコミュニケーションが成功に導く
もしあなたが、失敗してもいいから自分の考えを貫き通したいと思っているとしたら、それは改めるべきです。
自分を貫こうとする場合、一種ヒロイックな感情を自分自身に植え付け、敗北の美学に陶酔してしまう恐れがあります。
成功すれば十分に味わえるのが満足感や達成感ですが、失敗するとそれは、単なる自己満足にすぎなかったということになってしまうのです。
ですから、自分の考えを貫き通そうとするなら、成功という果実を必ずつかみ取らなければなりません。そのためには何が必要か――。
岩崎弥太郎はワンマンではありましたが、彼の考えを受け入れ、絶対的に服従する弟の弥之助や三羽烏、四天王と呼ばれた部下を持っていました。組織が大きくなればなるほど、こういう存在がないと、自分の考えは貫き通せませんし、望む100%の結果も得られません。
だれでも一人でできることは限られています。
そこそこの成功でいいと思っているのなら別ですが、事業を発展させ、会社を大きくしようとするなら、理解者と支援者、そして自分に付き従ってくれる信頼できる部下が欠かせないのです。
そういう味方を得るためには、自分の考えをきちんと説明し理解を得る努力が必要です。
実は、自分の考えを貫こうとする人は、この点が苦手です。分かってくれる人だけ分かってくれればいいと開き直り勝ちなのです。
そうなると、自分の考えすらも見失いがちです。
しかし、貧困家庭に育ち、後に「鉄鋼王」とまで呼ばれる成功を収めたアメリカの実業家、アンドリュー・カーネギーは次の言葉を残しています。
人間、優れた仕事をするためには、自分一人でやるよりも、他人の助けを借りるほうが、良いものが出来ると悟ったとき、その人は偉大なる成長を遂げるのである。
あなたも腹を割って周りと話をして、人生を自分の力で正しくコントロールできるようになりたくありませんか。