専門コラム 第40話 2020年をどう読み取るか
「繁栄」の子年とはいうものの・・・
2020年は子年。十二支にはそれぞれ相場の格言がありますが、子年は「繁栄」です。
昨年の亥年の「固まる」が「草木の生命力が種の中に閉じ込められた状態」、つまり、新しいステージに進むための準備期間であり、しっかりエネルギーやパワーを蓄える年であったのに続く「繁栄」ですから、大きな期待を寄せたくなります。
ところが、ぬか喜びに終わる恐れが多分にあります。
数年前から言われている東京五輪後の建設業をはじめとした冷え込み予想が、その理由の一つです。
関西経済界では、「五輪に続いて2025年の関西・大阪万博の礎を築く年」と万博景気に大きな期待を寄せていますが、全国的な景気浮揚に結びつくかは疑問です。
加えて、米中の覇権争いを象徴する経済戦争の行方は見通せません。
そのうえ、今月3日の米軍によるイラン革命防衛隊司令官の爆殺というとんでもない行為でにわかに緊張感が高まった中東情勢という火種も抱え込むことになりました。
「新設住宅着工戸数」を重視するニトリ会長
ここまでは一般的な見方です。
どんな媒体でもこうした論調は共通しています。
そんな中、年末年始の記事で目を引いたのが、「PRESIDENT」1月17日号に掲載されたニトリ会長兼CEO、似鳥昭雄氏のインタビューでした。
似鳥会長が、日本経済の景気の先行指標として重視しているのが「新築住宅着工戸数」だと話していたからです。
ニトリは競争の激しい小売業界で32期連続増収増益を続ける驚異の成長を見せていますが、それを支えているのが創業者である似鳥会長の的確な経済予測だとされています。
その会長が、住宅着工戸数にこだわるのは、住宅建築が増えると住関連商品や家電などの購買も増えるため、企業の業績に大きく影響すると見ているからです。
実例として挙げているのが、2008年のリーマンショック時です。
04年は約119万戸、05年約124万戸、06年129万戸と推移していた着工戸数が、07年には約106万戸と急激に減っていたのです。
この時期、すでに米国の住宅バブルともいうべきサブプライムローン問題の危うさが強く指摘されるようになっていました。
07年の急減は、サブプライムローンの行き詰まりと、それに続く大手金融機関の破綻への強い懸念を背景としていたのは間違いないでしょう。
では、直近はどうでしょう。2016年は約97万戸、17年約96万戸、18年94万戸。
そして19年は、12月分がまだ発表されていませんが、約90万戸にとどまる見通しです。
さらに、20年は約80万戸、24年以降は70万戸台と見込まれています。
人口減少が背景にあるとはいえ、その落ち込みは急激で、明るい見通しは立ちにくいのが現状と言えそうです。
似鳥会長は、景気循環においては、過去と同じ現象が繰り返されるとして、1964年の東京五輪後に不況に陥ったように、今年の五輪以降も土地や建物、鉄などの原材料価格が下がり、人材も買い手市場になっていくという知見を明らかにしています。
フェイクに惑わされずに情報の真偽を追求しよう
同じインタビューから経営者としての似鳥会長のスタンスを見ていきましょう。
まず、成功の秘訣は「逆張り」だと断言します。
不況の時こそ投資して、好況のときには投資しないということです。
したがって、マイナスのときこそチャンスがあると見て、景気が良い時も悪くなる時をじっと待っているというのです。
好況時の投資が大きいと不況になった時に大きな負担になるという指摘はもっともです。
だから、経営者は常に未来を見ることが必要だと言い、そのためには、景気動向の原因と結果を分析する習慣を身に着けるべきだと忠告します。
そして、少なくとも10年先の計画を立て、そこから逆算して、現時点でどんな手を打つべきなのかを常に意識することが重要だという考えを披歴しています。
話は飛びますが、紀元前1世紀に帝政ローマの礎を築いたカエサル(ジュリアス・シーザー)は「人は喜んで、自己の望むものを信じるものだ」という警句を残しています。
「人は見たいものしか見ない」という言葉も同じ意味でしょう。
現代的に言えば、人は希望的観測に陥りやすいということであり、欲や夢は人の目を曇らせると言い換えてもいいのではないでしょうか。
情報がビジネスの成否を分ける時代です。
フェイクニュースが意図的に作られ、権力者が恣意的に利用するのが当たり前のようになった昨今、情報の真偽を見極める目を持つことは極めて重要です。
こうしたことが、似鳥会長が言う景気動向の原因と結果を分析する習慣につながるのだと思います。