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専門コラム 第33話 地域の工務店が期待されるもの

                                   

「依頼するなら地元業者」と力説する知人の体験談

初めに、知り合いの体験談をご紹介しましょう。

マイホームを建てて15年。

吹き付け塗装の外壁に多くのひび割れが目立つようになり、塗り替えを決意。

インターネットで外壁塗装会社紹介サイトに登録した直後に、テレビCMでよく耳にするようになっていた業者が訪問販売に訪れました。

   

使用する塗装剤などを詳しく説明した後、「この地域で集中的に営業しており、実績をつくるためにお安くします」とかなりの割引価格を提示してきました。いわゆるモニター商法です。

営業マンの印象も悪くなかったので、知人はその場で契約しました。

   

それから2、3日後。

登録したネットのサイトから打診があったと言って、自宅近くの業者が、直接訪ねてきました。

話を聞いてみると、先に契約した訪問販売業者が手掛けた家では、2、3年後にまたひび割れができるなどのトラブルが多発しているとのこと。

そもそも、実際にどんな業者が施工するか分からず、業者によって品質にムラが出やすいうえ、価格も決して安くはなかったというのです。

   

知人はクーリングオフ制度を使ってすぐに解約。

改めて地元業者と契約しました。

結果として、これが大正解。

   

3度塗りが基本とされる外壁塗装ですが、この業者は下塗り2回、中塗り1回、上塗り2回の5度塗り。

しかも、すべて刷毛による作業で、夏の盛りに汗だくになって、ほぼ毎日壁に向かう姿に頭が下がる思いだったそうです。

   

もちろん、仕上がりには大満足。

窓や雨戸の戸袋などの養生もきちんとしており、はげていた濡れ縁までサービスで塗り直してくれたといいます。

   

知人は「地元業者は一度でも手を抜くと悪い評判が立って次の仕事が来なくなるので、一つ一つの作業が丁寧。

近所に外壁塗装を考えている人がいたら、絶対紹介しますよ」と話していました。

   

社長の人柄や会社の雰囲気を重視する「地域工務店派」

ネットでどんな情報も手に入れられる現代ですが、やはり基本は人と人との関係。

家を建てる際にも、業者と直接会話を重ねられる関係を持てることが大切でしょう。

   

業界紙が発行している「住生活ビジネス白書2019」に興味深いアンケート結果が載っていました。

住宅会社選びでどんな点を重視したかを、実際に地域工務店とハウスメーカーに依頼した人ごとにグループ分けして調査したものです。

   

「最も重視した」のは、地域工務店に依頼した人では「希望の価格帯との相性」が28.2%、ハウスメーカーに依頼した人では「住宅性能の高さ」が39.2%で、それぞれ最も多くなりました。

とはいえ、地域工務店派の2位は「住宅性能の高さ」、ハウスメーカー派の2位は「希望の価格帯との相性」でしたので、この点では大きな差はないと言えます。

   

特徴的だったのが、地域工務店派の第3位に「社長やスタッフの人柄」が入ったことです。

12.4%がこの項目を挙げたのですが、ハウスメーカー派では5.2%にすぎませんでした。

「会社の雰囲気・フィーリング」も、地域工務店派の8.4%に対してハウスメーカー派は3.0%と大きく差がつきました。

   

ハウスメーカーからは豊富な情報が日常的に提供されているほか、工事自体も多くがシステム化されているため、施主さんはある程度品質や施工精度への信頼感を抱いて依頼していることが感じ取れます。

   

一方で、地域工務店派が会社の雰囲気や社長、スタッフの人柄を重視するのは、画一的な住宅よりも個性のある家を求める傾向が強いためとみられます。

細かな要望や突然の変更依頼にも対応し、親身になってくれる工務店に親近感と安心感を覚え、発注につながるということではないでしょうか。

   

ただ、同じ調査で、業者からの情報で不足していることは何かを尋ねた質問に対し、地域工務店派では「家づくりの進め方に関する情報」を挙げた人が多いという結果が出ました。

工務店の家づくりは個別差が多くて進め方が一様でないため、情報を提供しにくいという事情はあるのでしょう。

しかし、依頼する方は家づくりに関しては素人なのですから、やはりこうした基本的情報は、より知っておきたいと考えるものでしょう。

   

サービスを超えて寄り添う気持ちこそお客様を引き寄せる

ハウスメーカーに信頼を寄せる人の気持ちも分かります。

最近はほとんどプレカット方式ですが、消費者にとっては、コストカットや工期の短縮というメリットがあり、これも経営努力の成果と言えます。

   

また、大工さんが年々減ってきて、頼れる工務店が近所にないという現実もあります。

5年ごとの国勢調査によると、1985年に80万6000人いた大工さんは2015年には41万1000人へと半減しました。

   

いわゆる職人にあこがれを抱くという時代ではなくなり、棟梁と弟子という関係についてもとてもついていけないと、大工を志望する若い人は極端に減っています。

何事にもスピード感が求められる現代、もはや「背中を見て学べ」の時代ではないのでしょう。

   

そんな時代の工務店経営も大変だと思います。

ハウスメーカーの系列に入ったり、最近増えているリフォームやリノベーションを積極的に手掛けたりと、さまざまな経営努力をされていることでしょう。

パソコンで三次元の完成予想図を提示してくれるところも増えています。

   

冒頭の知人も、家の写真に数種類のカラーの樹脂版を重ね合わせて、この色を選ぶとこんな印象になるということが一目瞭然だったので、色選びが楽しかったし、あとで後悔せずに済んだと話していました。

   

個人的には、在来工法には日本の大工さんが培ってきた高度で正確な技術が引き継がれており、一つの日本文化として途絶えさせてはいけないと思っています。

だからといって、技術のみにこだわりすぎるのも、工期や費用などの面で施主さんに負担をかけることになりかねません。

   

結局は、施主さんの意向を汲んだうえで、プロとしての知恵と知識で施主さんの期待以上の家をつくる努力を続けることに優るものはないと思います。

それは、「サービス」という言葉を超えて、心のふれあいを求める行為だと感じます。

   

言い換えれば、施主さんとその家族の喜ぶ顔を見ることが、自分たちの喜びだと感じることです。

そうなれば、職場としての魅力も一段とアップしていくのではないでしょうか。