専門コラム 第25話 実情に合う実現可能なプランを提供し、お客様の進化を後押しすることで幸せになる。
ある外交官の信念
ラグビーW杯日本大会が先週開幕し、日本代表は開幕試合の緊張感の中、ロシアを破って好発進しました。
大会に合わせて、ラグビーに関するさまざまな情報が発信されていますが、あるテレビ番組が印象的でした。
主人公は外交官だった故・奥克彦さん。
兵庫県立伊丹高校で花園に出場し、早稲田大学でも活躍した元ラガーマン。
将来の日本代表とも期待されましたが、夢である外交官を目指して退部。
しかし、外務省の語学研修で留学したイギリスのオックスフォード大学でラグビー部に所属し、日本人で初めてレギュラーになった人です。
彼の口癖が「W杯を日本でやろう。絶対できる」ということでした。
後に日本ラグビー・フットボール協会会長になる森喜朗元首相に何度も談判し、強く開催を働きかけ続けました。
日本大会開催の大きな力になったのは間違いありません。
それ以上に存在感を示したのが、外交官としての活動でした。
奥さんはイラク戦争後の復興に動き始めたイラクに2003年4月から長期出張し、アメリカを中心とした復興人道支援室と日本政府とのパイプ役を務め、復興支援に走り回りました。
そうした活動の一環として訪れた病院には、手術台があるだけで、棚の中は空っぽ。必需品である薬も手術器具もありません。支援を求められた奥さんは、その場で快諾。先輩外交官は、外務省にお伺いを立てなくて大丈夫かと心配しましたが、「そんなことをしていたら半年はかかり、その間に救える命も救えなくなってしまいます」と取り合わず、自ら奔走して薬や器具を運び込んだのです。
この話を聞いて、杉原千畝を思い出しました。
第二次世界大戦開戦時のリトアニアの領事館で、ユダヤ人難民のために本省の訓令に逆らって日本通過のビザを発行し続けた外交官です。
その人道的な行為は今も世界に感銘を与え続けています。
奥さんにしても杉原千畝にしても、目の前の困った人を放置できないという人類愛に満ちていました。
そこには、外交官としてよりも、人間として揺るぎない信念があったのです。
信念に従った決断に、2人は何のためらいもなかったでしょう。
「善い正直な仕事」こそが成功につながる
2人の外交官の決断は、ともに命に係わる状況下においてのものでした。
奥さん自身、2003年11月にイラク国内で何者かに銃撃されて命を落としました。
ビジネスにおいてそこまで切迫した状況に置かれることはまずないでしょう。
しかし、人道主義、人類愛といった不変の価値観を重視した彼らのように、目の前の損得や利害にこだわらず、より大きな視点で物事を判断することは重要です。
フロイト、ユングと並ぶ心理学の大家、アルフレッド・アドラーはこう言っています。
判断に迷ったら、より多くの人間に貢献できる方を選べばいい。自分よりも仲間たち、仲間たちより社会全体。
この判断基準で大きく間違うことはまずないだろう。
以前にも述べましたが、企業は社会に生かされている存在であるという意識を持つべきです。
その社会に還元することを理念と行動の基礎に据えて物事の判断に当たれば、必ず自分にも還元されてくるはずです。
アメリカの「鋼鉄王」、アンドリュー・カーネギーもこんな言葉を残しています。
長い一生のうちに、善い正直な仕事をしない会社が成功するのを見たことがない。
「善い正直な仕事」とは何か。
目先の利を追い求めず、取引先やお客様のことを第一に考え、それが社会規範に照らしても何ら後ろめたさを覚えることのない仕事の進め方を指すと言えるでしょう。
大切なのは、経営トップがそう考えるだけでなく、従業員全員にその思いを刷り込ませることです。
そうすれば、現場現場の判断で間違えることも迷うこともなくなり、会社の格も上がっていきます。
当然、従業員にも自尊が生まれ、正しい言葉遣いや態度、言葉遣いといった日常の生活態度や仕事ぶりに変化が現れ、仕事のスピードアップにもつながっていくでしょう。
お客様の志に寄り添い、実現を目指すことの喜び
以前に「志」について触れました。
正しい判断を導く信念は、志に根差していると言ってもいいでしょう。
志は目標とは違います。
目標は到達すべき地点ですが、志は、そこで何をするかをはっきり描いているものです。
あなたに志があれば、お客さまにも志はあるでしょう。
両者の志が一致すれば、これほど仕事が楽しくなることはありません。
ですから、仕事においてはお客様の志を知ること。
もっと言えば、お客様の気づいていない志に気づかせてあげることが、自分の仕事の成功につながりますし、自分の志を達成する一歩となるでしょう。
とはいえ、両者の志がいつも一致するとは限りません。
ならば、優先すべきはお客様の志であり、まずやるべきはお客様の実情にあった提案をすることです。
そして、それは実現可能なものでなくてはなりません。
松下幸之助は子次のように言いました。
世間には、大志を抱きながら大志に溺れて、何一つできない人がいる。
言うことは立派だが、実行が伴わない。世の失敗者には、とかくこういう人が多い。
お客様を失敗者にしてしまっては、たとえお客様のことを考えての提案であったとしても何にもなりません。
実行を伴い、実現し得る提案が求められるのです。
そのためには、お客様のことをよく知らなければなりません。
お客様の会社や従業員、家族のことはもちろん、お客様が何を求めているのか、それによって会社をどうしたいのか。
あるいは人生の夢は何なのかといったところまで引き出して、その実現のために自分は何ができるのかと考えるのです。
一つでもその夢や希望が実現すれば、お客様の人生も前に転がり始めます。
すると、お客様自身の夢や志も、より大きく具体的になってくるでしょう。
そうした進化に寄り添うことができれば、自分も大きな満足感を得られるでしょう。
あなたは、お客様の実情に合う実現可能なプランを提供し、お客様の進化を後押しすることで幸せになりたくありませんか?